日本では超高齢化が加速しており、医師不足の解決や在宅医療の質向上のため医療分野におけるIoT活用の需要が高まっています。医療分野でのIoTとは、医療機器やシステムがインターネットに接続されデータの送受信が行われる状況のことです。
では、医療分野ではIoTがどのような役に立つのでしょうか。この記事では、医療分野におけるIoT活用の市場予測や需要、現在のIoT活用事例を紹介します。
目次
医療分野におけるIoT活用の市場規模
株式会社富士経済「医療分野におけるIoT関連機器・システムの国内市場」では、医療分野でのIoT関連機器およびシステムの国内市場は、2019年には988億円であり、2025年には1,685億円になると予想しています。
2014年に「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)」が施行され、「Apple Watch」のようなウェアラブル機器や見守りシステム等のスマホアプリが医療機器として広く活用され始め、IoT関連機器およびシステムの市場が拡大しました。
医療分野でIoTが求められている理由
後期高齢者の数が増加する中、病院で入院するよりも住み慣れた自宅で訪問診療を受けて療養したいと考える人も増えています。そこで在宅診療を行う医療機関では、患者の病状の急変などに対する迅速な対応が求められています。
IoTを活用したモニタリング機器を用いると、常に患者の病状を遠隔から医師がチェックできるため、身体の異常や病状の急変に医師がいち早く気付けるようになります。
また患者のMRIやCT画像は、従来から医師が目視でチェックしています。MRIやCT画像の確認はミスが許されないため、医師は多くの時間と労力をかけてチェック業務を行い、さらに別の医師がダブルチェックを行う必要があります。
そこでIoTを活用して患者の検査画像を、インターネットを介して画像診断サービスに送ります。すると画像診断専門医が画像をチェックし、診断結果を医師に知らせます。すると医師は診断結果を確認して、患者に病状を説明する業務に専念できるようになります。
以上のように在宅医療の質向上や医師不足解決のため、医療分野においてもIoT機器やシステムの活用が求められています。
医療現場におけるIoT活用事例
遠隔で画像診断専門医が読影「遠隔画像診断サービス」
株式会社エムネスは遠隔での画像診断サービスを提供しています。契約している医療機関が患者のMRIやCT画像を「医療支援クラウドサービスLOOKREC(ルックレック)」に送信すると、エムネスの放射線診断専門医が画像診断を行い、読影報告書を作成します。
現場の医師は、放射線診断専門医が作成した読影報告書を基に患者に病状を説明できます。そのため、今まで医師が画像診断に費やしていた時間を患者とのコミュニケーションに充てられるようになります。
遠隔診療サポート機能付き見守り支援システム 「ニプロハートライン TM」
ニプロ株式会社は、遠隔診療サポート機能付き見守り支援システム 「ニプロハートライン TM」を提供しています。「ニプロハートライン TM」は、患者が血圧や体温などバイタルを測定すると自動的に医療機関へ送信されるシステムです。
患者のバイタルが異常値の場合はすぐに医師へアラートが届きます。さらに、テレビ電話を活用して医師は患者の様子を見ながら診察を行えるので、患者が病院まで出向かなくても遠隔診療が行えます。
タブレット型超音波画像診断装置 「SonoSite iViz」
株式会社富士フィルムの「SonoSite iViz」は持ち運びできる超音波画像診断装置です。タブレット型の液晶スクリーンは白衣のポケットに収まるサイズなので、あらゆる臨床現場へ持ち運んで患者の診察を行えます。
プローブは動脈、静脈、肺、表在組織、神経、筋骨格、眼科など用途に合わせて複数用意されており、付け替えて使用できます。本体には約7万枚分の画像を保存でき、スクリーンの直感的操作で画像診断も素早く行えるのが特徴です。
手首につけて歩数・カロリーを測定「MOVE バンド3(ムーヴバンド3)」
「MOVE バンド3」は腕時計のように手首に装着するタイプのウェアラブル装置で、歩数や消費カロリー、睡眠時間が計測できます。計測データは自動的にスマホアプリに送信され、毎日のデータが蓄積されていきます。
「MOVE バンド3」は継続して利用することで、生活習慣病の予防にも役立ちます。病院での受診時は、スマホアプリのデータを医師に見せるだけで生活習慣に関するアドバイスをもらえるので、医師とのコミュニケーションも容易になるでしょう。
IoT活用により質の高い医療と健康管理が可能に
自宅近くに病院がなく通院が困難な場合や、慣れた自宅でゆっくりと過ごしたい人にとって、IoTを活用したバイタルの自動送信や遠隔診療は安心感をもたらし、医師も患者の自宅まで往診する必要はなくなるので労力と時間が削減できます。
また、遠隔で患者の画像診断を行うサービスを利用すれば、医師は読影のダブルチェックのみを行うとすぐに患者へ説明できるため、患者とのコミュニケーションの時間を十分に確保できます。
さらにウェアラブル装置によって簡単に生活習慣がデータ化できるので、健康維持に役立ちます。医療分野においてIoT活用が進むと、今よりもずっと質の高い医療を受けられ、健康管理も容易になるでしょう。