最新テクノロジーは今後あらゆる産業を変革していくと期待されています。AIやIoT、ロボットなどの技術が代表的な事例として挙げられますが、それらを繋ぐ役割を果たすのが5Gです。
「大容量・超低遅延・多接続」という3つの特徴をもった5Gは、従来の4Gでは実現が難しかったことも可能にすると考えられています。さまざまな分野で活躍が期待される5Gですが、今回の記事では日本を支える第一次産業の「農業」がどう変わっていくのか詳しく解説していきたいと思います。
目次
日本の農業が抱える問題
まずは本題に入る前に、そもそも日本の農業がどのような問題を抱えているのかを考えてみましょう。
後継者不足と高齢化
農林水産省の統計によると、2019年(下記表の31年)時点での農業従事者は全国で約168万人。2010年には約260万人いたことを考えると、猛烈なスピードで減少し続けていることが分かります。
また、同時に農業従事者の平均年齢も66.8歳となっており、毎年少しずつではありますが高齢化が進んでいる現状があります。
引用元:農林水産省HP
技術伝承の断絶
農業従事者の後継者がいないということは、農業の技術が伝承されずに断絶してしまうことにもつながります。結果として店頭に高品質な国産の農産物が並ばなくなってしまうことも懸念され、消費者にとっても大きな打撃を受ける可能性が考えられるのです。
解決すべき課題
現在、日本の農業が抱える課題に対し、具体的に何を解決すべきなのでしょうか。いくつかの事例をご紹介します。
農作業の身体的負担の軽減
農業従事者の高齢化にともない、早急に解決しなければならないのが農作業の負担軽減です。広い田畑で体を動かし、屋外の過酷な環境で作業を行う農業は、体力の衰えとともに負担が大きく感じてしまうものです。
加齢によって体力が落ちてくると、農業を続けたくても続けられないといった問題と直面し、やむを得ず廃業という選択肢を取る人も少なくありません。
今後ますます農業従事者の高齢化は進むと考えられているため、できるだけ負担を軽減し無理なく農業が続けられる環境を整備しなければなりません。
農業技術の伝承
農業という仕事は一見簡単そうに見えますが、高度な技術や知見の積み重ねによって実現できているものです。家庭菜園の延長のような感覚では収穫量も増えず、害虫や病気に悩むケースも多いです。
農業従事者の多くは作物ごとに多様なノウハウを蓄積しており、従来であれば跡継ぎとなる子どもにその技術を伝承していくことが多いものでした。
しかし、現在ではそのようなケースは稀であり、農業従事者に対して広く技術伝承をしていかなければならない時代になっています。
スマート農業を実現するための5G活用事例
農業従事者の身体的負担を軽減したり、技術伝承の課題を解決するために注目されているのが最新テクノロジーを駆使したスマート農業です。
ここからは、スマート農業を実現するための事例をいくつかご紹介します。今回は5Gを活用した事例をピックアップしてみました。
トラクターの自動運転
AIや5Gの利活用分野として自動運転技術は定番化していますが、農業に欠かせないトラクターの自動運転は自動車よりも早い段階で実用化が検討されています。トラクターは自動車ほど複雑な判断を必要としないため、技術的にも比較的ハードルが低いとされています。
しかし、田畑を耕すという目的においては自動運転よりも高い位置情報の精度が求められます。たとえば位置情報に数十cm程度の誤差が生じてしまうと、作業にムラができてしまい作物の生育にも影響を及ぼしかねません。そのため、トラクターの自動運転においてはわずか数cm、数mmレベルの誤差に留める必要があるのです。
このような少ない誤差を実現するためには、トラクターがGPSなどで位置情報を取得し走行しながら、同時に測位情報をコントロールするコアシステムと常時通信を行い、誤差があれば都度微調整を行うというシステムを構築する必要があります。
このとき、測位情報を瞬時に解析しトラクターに送信するためには、超低遅延の5Gネットワークが有効な手段といえます。
ドローンによる生育状況の把握
スマート農業には自動運転のトラクターのほかにも、ドローンの活用が検討されています。代表的な事例としては上空から農薬を散布したり、俯瞰で生育状況を確認したりといった用途が考えられるでしょう。
広大な田畑で育った作物は、陽の当たり具合によって一部が未成熟のままになっていることもあります。これまでの農業は地上からしか作物を確認することができなかったため、田畑全体を一度に見ることが難しいものでした。
しかし、ドローンの導入によって田畑のポイントごとに農薬量の調整や、間引きなどの適切な対策がとれるようになります。
ただし、作物の状況は4Kカメラのような超高精細なカメラでなければ詳細を確認することはできません。通信するデータ量も莫大であるため、大容量の5Gネットワークの活用が有効とされています。
各種IoTセンサーとの併用
特に温度や湿度管理が繊細な作物の場合、こまめにビニールハウス内を人が巡回し、状況に応じてきめ細かな管理をしなければなりません。1日のうちに何度も足を運び、時間や天候に応じて空調を管理することは決して楽な仕事とはいえない現状があります。
そこで、ビニールハウス内や田畑のなかにさまざまなセンサーを設置し、常に変動する環境を管理するセンシング技術が検討されています。
たとえば一定範囲内の気温や湿度を下回ったらアラートを発するシステムを構築しておけば、必要なときだけ現地に出向いて作業ができます。
また、ビニールハウス内にカメラを設置しておけば常に生育状況を把握することもでき、離れた場所からも収穫期を知ることができるでしょう。害獣や鳥に作物を荒らされて困っている場合は、田畑に害獣が現れたときにアラームを発報したり警報音を鳴らしたりするシステムを構築すれば効果が見込めるはずです。
このように、IoTのセンシングデバイスと5Gを活用することによって、さまざまな問題を解決するソリューションが生まれてくるはずです。
クラウドを活用した農業技術の伝承
これまでの農業は、代々培ってきた技術を人伝いに伝承してきたという背景があります。しかし、それは場合によっては長年の経験や勘に頼る部分も多く、いざというときに判断に迷ってしまうこともあります。
自然と対峙する農業という仕事は人間の思い通りにはいかないことも多く、だからこそノウハウや知見をいかに長く受け継いでいけるかが大きなカギとなります。
テクノロジーが発展した先にある未来の農業とは、そのようなノウハウをデータとしてクラウドに蓄積していく技術が求められます。その日の天候や気温などの環境データはもちろん、何の作物にどのような作業を行ったのか。あらゆるデータを蓄積していき、収穫期にどの程度の作物が収穫できたのかをデータ化することによって、より効率的な農作業に役立てることができるはずです。
このようなデータをクラウドにアップロードする際にも、屋外のあらゆる場所でつながる5Gのネットワーク技術が必要不可欠なものとなります。
スマート農業の実現に向けて期待が高まる5Gのテクノロジー
5Gはあらゆる産業を再定義するほどインパクトのあるテクノロジーと言われています。しかし、それは決して5Gだけの力によってもたらされるものではありません。AIやIoT、ロボティクスなど、さまざまな技術の力が結集して初めて実現できる世界といえるでしょう。
スマート農業は日本の一次産業を復活させるための重要なキーワードとなっています。さまざまな問題を抱えている日本の農業ですが、テクノロジーの力によって負担が軽減され、農業のイメージが一新されると新規就農者も増加し再び日本の農業が盛り上がってくるかもしれません。