IoTやAIといった先進のテクノロジーは多様な業種で活用され、働き方改革や企業の生産性向上などに役立てられるようになりました。これまではITとは関連性が低いように考えられていた業種においても、これらのテクノロジーは積極的に活用されはじめています。なかでも現在注目を集めているのが、旅行・観光業界への活用。トラベルテックともよばれるこの分野は、新型コロナウイルスによって受けた甚大な影響から立ち直るべく、今後一気にテクノロジーがの導入が進んでいくと考えられます。
そこで今回は、トラベルテックの基本的な知識や事例を紹介するとともに、今後旅行・環境業界はどのように変化していくのかも含めて詳しく解説していきます。
目次
トラベルテックとは
トラベルテックとは「トラベル(旅行)」と「テクノロジー(技術)」を組み合わせた言葉です。これまでも、ホテルの予約・決済や交通機関のチケット確保など、インターネットを活用してさまざまな手続きを行うことは可能でした。
しかし、トラベルテックはそこからさらに一歩進んで、複数のテクノロジーを組み合わせて快適な旅を提供することができます。
ちなみに、AIやIoTといったテクノロジーは、医療や教育など複数の分野においても注目されています。たとえば医療の場合は「MedTech(メドテック)」、教育の場合は「EdTech(エドテック)」といったように、分野ごとにテクノロジーとの融合を指す言葉が存在します。これらを総合して「X-Tech(クロステック)」とよびますが、トラベルテックもクロステックの一つに数えられているのです。
携帯電話にインターネット接続機能が搭載されスマートフォンが誕生したように、一見関連性が低いと思われる分野で大きなイノベーションは誕生するもの。旅行・観光業界で積極的なテクノロジーの活用が進んでいけば、これまで私たちが経験したことのないような革新的な体験が実現できると期待されています。
トラベルテックの事例
一口にトラベルテックといっても、施設や目的に応じてさまざまな事例が存在します。なかでも現在注目されている5つの事例をピックアップしてご紹介しましょう。
ホテルへのロボット活用
ホテル業界において注目されているのが、ロボットを活用した自動チェックインやアメニティなどの配達です。多くのホテルでは夕方から夜にかけて多くの宿泊客が訪れ、チェックインのタイミングによっては長時間フロントで待たされるケースもあります。しかし、ロボットによるチェックインを採用すればチェックインの作業を効率化でき、必要に応じてロボットを追加するなどの対策を取れば時間を大幅に節約できます。
また、歯ブラシやタオルといったアメニティの追加オーダーを受けた際にも、スタッフが部屋まで持ち運ぶのではなくロボットに配送させることができれば、最小限のスタッフで業務を遂行できます。従業員にとっては働き方改革にもつながり、宿泊客にとってはプライバシーも確保されるため安心してホテルを利用できます。
AIを搭載したIoTデバイスによる自動翻訳
2020年は新型コロナウイルスの影響によって外国人観光客が一気に減少してしまいましたが、今後感染が落ち着いた頃には再び多くのインバウンド需要が期待されます。また、日本人のなかにも海外旅行に出かけたいと考えている方も多いのではないでしょうか。
そのようなときに役立つのが、AIを搭載した自動翻訳機能です。最近ではスマートフォンで利用できる翻訳機能もありますが、ソースネクストが開発した「ポケトーク」のように翻訳に特化したデバイスも数多く登場しています。このような端末はIoTの通信機能によってクラウドにアクセスし、自然言語処理や音声認識といったAIの機能を活用しています。
デバイスを利用するユーザーが増えれば増えるほど翻訳や音声認識の精度も向上していき、外国語を話せない方であっても不安を感じることなくコミュニケーションがとれるようになります。
キャッシュレス決済
日本は円の信用が高く現金決済が一般的ですが、一部の海外の国ではクレジットカードやICカード、QRコードによるキャッシュレス決済が一般的となっています。2018年頃から日本でもQRコード決済の事業者が続々と参入してきましたが、これは外国人観光客にとっても大きなメリットといえます。
QRコード決済サービスのなかには海外のQRコード決済にも互換性をもたせ、相互利用できるところも存在します。キャッシュレス決済に対応していないことによって販売機会を逃すケースも考えられるため、特に外国人観光客の多いお店や宿泊施設などにとっては重要なツールといえるでしょう。
スマートロック
ホテルへのチェックインを省力化したり、セキュリティを高めたりする目的でスマートロックを導入するところが増えています。スマートロックとは、スマートフォンなどで認証するデジタルキーの仕組みを採用したもの。たとえば、事前に予約した日時に合わせてデジタルキーを宿泊客に配信し、チェックアウトが完了したらデジタルキーを無効化にするという使い方ができます。
宿泊予約時の本人確認を確実に行えるメリットもあり、ホテル側としては万が一宿泊時に何らかのトラブルが発生しても追跡が可能なため安心です。
ビッグデータ解析
観光地や交通機関など、その場所を訪れた人の数や移動範囲をビッグデータとして収集し、どのような行動をとる観光客が多いのかを分析することができます。最近ではスマートフォンを地図代わりに使用するケースも多く、マップデータから人々の移動履歴を分析することによって、地方の活性化や効果的な観光プラン、交通機関における効率的なダイヤの提供に役立てることも期待されます。
ビッグデータの収集にあたってはプライバシーを配慮して個人が特定できる情報は収集せず、あくまでも行動範囲や移動履歴を対象とするため、ユーザーからの承諾も得やすいはずです。
新型コロナウイルスで変わる観光業界
ここまで紹介したトラベルテックの事例は、現在新型コロナウイルスによって苦境に立たされている多くの環境事業者にとっても有効なヒントになるはずです。たとえばホテルへのロボット活用やスマートロックの導入は、従業員や宿泊客同士での感染リスクを軽減するうえでも効果が見込めるでしょう。
キャッシュレス決済は現金の受け渡しによる感染リスクが低いため、ホテルはもちろん多くの観光地やお土産物店でも積極的な活用が見込まれます。ビッグデータ解析の分野では、観光地や交通機関の混雑状況をリアルタイムで提供することにより、三密を避け感染リスクを軽減しながら観光地を回ることもできるはずです。
このほかにも、たとえばカーシェアリングサービスを利用して交通機関における密を避けるといったメリットも考えられるでしょう。観光業界は依然として厳しい状況にあるなか、新型コロナウイルスが落ち着いた頃には新たな取り組みを積極的に検討し始める事業者も増えてくると考えられます。
トラベルテックの本質
トラベルテックはアイデア次第でさまざまな活用ができますが、何か特定のテクノロジーを活用することが本質ではありません。観光に限ったことではありませんが、テクノロジーだけで解決できる問題は極めて少なく、あくまでもそれぞれの業種や分野におけるノウハウや知見を組み合わせていくことが極めて重要です。
今回紹介してきた事例はあくまでも一部であり、今後新たなテクノロジーやアイデアが生まれ、観光業界がコロナショックからの復活を遂げる日が確実にやってきます。それまでの間、まずはできることから少しずつ始めていきましょう。