AI・ビッグデータ時代に求められる人流データの活用方法

人流データの活用方法 AI

スマートフォンやタブレットなどの情報端末が多くの国民へ行き渡ったことにより、位置情報を取得し人流データをさまざまなビジネスに活用できるようになりました。2020年に入ってからは新型コロナウイルスの感染拡大にともない、都心部への人の流れが減少したとの報道もなされるようになっています。これは複数のスマートフォンユーザーの位置情報をもとに人流データを割り出した結果であり、定量的なデータをもとに客観的に証明できる方法として注目されています。

今回の記事では、なぜここ数年で人流データが注目されるようになったのか、AI・ビッグデータ時代において人流データはどのような活用方法が考えられるのか、いくつかの具体的な事例を交えながら詳しく解説します。

人流データとは

人流データとは

そもそも人流データとは、その名の通り人の流れを定量的なデータとして表したものです。たとえば都心部のオフィス街には、平日の日中は多くのサラリーマンが仕事で出社する一方、深夜や土日には滞在している人の数は大幅に減少するということが予測できます。しかし、それを客観的に証明するためには、複数の位置情報をもとにデータとして割り出さなければなりません。

オフィス街のように滞在する人の属性が安易に予測できる場合は人流データは必要ないかもしれませんが、たとえばあるエリアに居住している人はどこに通勤している割合が多いのか、どの年齢層が多いのかなど、より詳細なデータを分析するためには人流データが不可欠なのです。

人流データが重視される理由

人流データが重視される理由
位置情報を取得して人流データを得ることは、さまざまな分析に役立つことは分かりましたが、なぜここ数年のうちに注目されるようになったのでしょうか。そこには技術的な進歩とビジネス面でのメリットが浸透してきたことが挙げられます。

IoTやビッグデータ解析技術の向上

技術的な進歩に関するポイントとしては、IoTやビッグデータを活用した解析技術が向上してきたことが挙げられます。人流データを一言で表すとすれば、位置情報の集合体です。位置情報を取得すること自体は技術的に難しいことではなく、これまでもGPSを活用すれば比較的簡単に取得することはできました。しかし、取得した膨大な位置情報を集約し、分析するのはコンピュータ側の性能も追いついていなかったため簡単なことではありませんでした。

しかし、2011年頃から急速にビッグデータのキーワードが叫ばれるようになり、スマートフォンの普及にともなってビジネス分野への人流データの活用が本格的に検討されるようになったのです。かつては現在のような人流データを集めようとすると、膨大な時間とコストがかかっていましたが、現在ではさまざまな業界でのニーズが高まり人流データを得るためのコストも大幅に下がってきています。

マーケティングの精度が向上する

技術的なハードルをクリアしたことで人流データは手に入りやすくなりました。これにいち早く注目したのがマーケティング業界です。たとえば店舗の出店計画をたてるとき、従来は当該エリアにおいて交通量調査などを行い、人海戦術で人流データを取得するのが一般的でした。しかし、当然のことながら精度の高いデータを得るためには長期間にわたるデータが求められ、それに比例して膨大なコストもかかってしまいます。

これに対して、スマートフォンの位置情報から取得する人流データであれば、高い人件費と時間をかけることも不要で、詳細なデータを簡単に得ることができます。また、従来のように短期間で終わる人流データ調査とは異なり、一定のスパンまたは前年との比較データなども簡単に取得できるため、マーケティングの精度は飛躍的に向上します。

人流データの活用事例

人流データの活用事例
人流データは具体的にどのような活用をされているのでしょうか。今回は典型的な事例を3つ紹介します。

店舗出店計画の意思決定

たとえばレストランやカフェなどを新規出店する際、そのエリアにどの程度の人が住んでいるのか、年齢や性別などの属性、休日はどのお店に多くの人が訪れているのかなど、さまざまな面から綿密な調査が行われます。このようなマーケティング調査が甘く、計画を立てずに出店してしまうと、想定よりも客数と売上が伸びず短期間で撤退を余儀なくされることもあるのです。

人流データを活用すれば、本当にそのエリアにお店を出しても良いのか、採算は取れるのかなど、あらゆる面から客観的に判断でき、新規出店にかかるリスクを最小限に抑えることが可能です。

新商品や新サービスのマーケティング調査

人流データは新たな店舗の出店計画だけではなく、既存店舗で提供する新商品や新サービスのマーケティング調査に役立てることもできます。たとえば人流データによって当該エリアにファミリー層が多いことが分かると、レストランやカフェで子ども向けの商品を試験的に提供したり、ファミリー層向けのキャンペーンを展開することも考えられます。

仮に同じチェーン店であっても、お店の立地によっては客層も大きく異なります。売上や利益を上げるためには、顧客ニーズを的確に把握することが大前提であり、その客観的な材料として人流データが役立ちます。

新型コロナウイルスの感染症対策

2020年はもっとも人流データが注目された年といっても過言ではありませんでした。新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの観光地や都心部に訪れる人の数は減少し経済は大打撃を受けました。ニュースでは毎日のように人出が遠のいた店舗や観光地の情報が取り上げられ、中には前年比90%以上も人出が減少した場所もあるほど。

このような具体的なデータを公表できたのも、実はスマートフォンから取得した位置情報をもとに割り出した人流データが貢献しています。新型コロナウイルスが蔓延する2019年以前からも人流データは取得されていたため、今年に入ってからの数値だけではなく、前年またはそれ以前からのデータと比較することで新型コロナウイルスによる経済への打撃の規模を具体的な数字で把握できるのです。

人流データをビジネスへ活用するうえで懸念されるポイント

人流データをビジネスへ活用するうえで懸念されるポイント
人流データをビジネスに活用しようと考えた場合、根拠となっているデータはスマートフォンユーザーの位置情報であるため、個人情報の特定につながるのではないかといった懸念を抱く方も少なくありません。

しかし、人流データを提供している企業のほとんどは、あらかじめ位置情報の取得に同意いただいたスマートフォンユーザーのデータのみを利用しています。また、人流データを割り出す際には個人が特定されないよう個体識別番号が暗号化されているなど、プライバシーには徹底的に配慮されています。そのため、たとえば人流データを手に入れたからといって何らかの法律に抵触したり、悪意のあるユーザーに情報が漏れて個人情報の特定につながったりといったリスクもありません。

AIとビッグデータの活用で人流データの可能性はさらに大きくなる
人流データはスマートフォンの普及とともに精度が向上し、さらに今後AIやビッグデータの時代が到来すると、ビジネスへ活用できる可能性はどんどん広がっていくことでしょう。今回紹介したマーケティングや感染症対策といった活用事例はほんの一部であり、これから他の業界・業種においてもニーズは拡大していくと予想されます。