5Gはあらゆる産業を変革するテクノロジーといわれており、さまざまな業種において活用方法が検討されています。なかでも自動運転は5Gの象徴的な活用事例とされ、自動車業界はもちろんのこと物流業界からも高く注目されています。
5Gを活用した自動運転技術が発展することにより、物流業界はどのようなメリットが得られるようになるのでしょうか。今回は5Gと自動運転、それに関連する業種の進化についても詳しく紹介します。
目次
日本の物流が抱える問題
はじめに、日本国内で物流業界がどのような課題を抱えているのか見ていきましょう。
Amazonや楽天などのECサービスの台頭により、ネットショッピングを日常的に活用する人の割合が増加しています。2019年6月にニールセンが調査したところによると、Amazonの利用者は約5,000万人、楽天市場は4,800万人、メルカリは2,200万人のユーザー数を誇り、いずれも前年に比べてユーザーは増加傾向にあります。特に従来のオンラインショッピングサービス以外にメルカリをはじめとしたフリマサービスの増加率は顕著で、業界トップのメルカリは前年比33%の増加となっています。
画像引用元:ニールセン
このような背景もあり、宅配便の荷物取り扱い実績も年々増加傾向にあります。国土交通省が調査した宅配事業の現状によると、2016年までの段階で5年間で18%もの増加率となっていることが分かっています。
荷物が増えても配達を行うドライバーが十分いれば問題ないのですが、昨今の深刻な人手不足の背景もあり有効求人倍率は軒並み上昇。現在では2~3倍程度の求人倍率となっており、日本国内の物流業界は慢性的かつ深刻な人手不足が続いていることが分かります。
画像引用元:国土交通省資料181-3
自動運転技術で解消できる問題
深刻な問題を抱える物流業界において、自動運転技術が実現したときにどのような課題を解決できるのでしょうか。考えられる問題として3つの事例をご紹介します。
物流と交通の効率化
まずは荷物の配達やトラックの輸送経路の効率化です。自動運転技術を物流業界に応用すると、単に自動車の運転を助けるというだけではなく、荷物の配送経路もセンター側で自動的に最適化できるようになります。
その日の荷物の量や道路の状況、天候などを考慮し、どのルートを走るトラックにどの程度の荷物を載せて配送するのがもっとも効率的なのかを可視化することができます。
もちろん、自動運転技術が普及して輸送トラックはもちろん、一般車両も自動的に制御されるようになると交通渋滞が減り、より効率的な輸送が可能になるはずです。
ドライバー不足の解消
自動運転技術によってドライバーの負荷が軽減されると、ドライバー不足の問題も解消されると期待できます。そもそもドライバーのなり手が少ない理由としては、長時間労働や肉体労働を避けたがる人が多いことが考えられます。
自動運転技術によってトラックを運転する必要がなくなり輸送ルートも最適化されると、これまで長時間労働を強いられてきた労働環境も改善されると考えられています。
肉体労働できつい仕事というイメージの強かった宅配ドライバーは、働きやすい環境に生まれ変わりシニア世代や女性も活躍できる業界になるはずです。
交通事故の抑制
物流業界にとって最大のリスクは交通事故といっても過言ではありません。自損事故であれば最小限の損失で済むかもしれませんが、万が一他の車を巻き込んでしまったり人身事故を起こしてしまうと、場合によって事業の存続にかかわるほどのダメージを受けることもあります。
そのような交通事故のリスクも自動運転技術の発展によって最小限に留めることが可能になります。一口に自動運転技術といっても「運転支援」を行うレベル2までの段階と、自律走行を行うレベル5までの段階に分けられます。現在は運転支援システムが実装されているレベル2までの段階であり、私たちが考えている「自動運転」のレベル3以上になると法的整備も必要になります。
画像引用元:フォルクスワーゲン
自動運転によって交通事故が完全に解消できる未来はまだ少し先になるかもしれませんが、着実にその日に向けて技術は進化しています。
自動運転技術の仕組み
そもそも自動運転技術はどのような仕組みによって実現されるのでしょうか。基本的な仕組みについて3つのステップに分けてご紹介します。
センシング技術によるデータ収集
自動運転に欠かせないのがさまざまなデータです。たとえば運転席から見た正面の道路状況、路面の状態、対向車や後続車の位置など、必要とされる情報は無数にあります。私たちが自動車を運転する際には、これらの情報を瞬時に判断して適切なハンドリングや制御を行っています。
自動運転車を走行させるためには、まずはこれらのデータを自動車に設置されたカメラやセンシングデバイスなどによって収集しなければなりません。
制御情報のやり取り
センシングデバイスによって収集されたデータは、制御を司るセンターに即座に送信しなければなりません。自動運転技術と聞くと自動車自身が制御しているかのようなイメージをもっている人も多いと思いますが、実は制御を司るセンターとの通信によって行われます。
実際には1から100までの制御をセンターで行うのではなく、ときには自動車側で判断して制御を行うこともあります。しかし、いずれにしても制御情報をやり取りするための通信は必要不可欠であり、このために5Gのテクノロジーが活用されます。
自動車の制御操作
制御センターもしくは自動車側でブレーキやハンドリングの制御命令を出した後、実際に自動車はさまざまな運転のアクションを起こします。人間の目や耳に該当するのがセンシングデバイスであり、脳や神経は制御情報のやり取りに該当するものといえるでしょう。
5Gが自動運転に必要不可欠な理由
5Gは制御情報のやり取りに必要となるテクノロジーと紹介しましたが、その理由は何なのでしょうか。5Gの特徴である「低遅延・大容量・多接続」という3つのポイント別に紹介します。
低遅延
自動運転を実現するために制御情報をやり取りする場合、通信における遅延が大きな課題となります。遅延が大きくなると制御指令を出してから自動車に届くまでに時差が生じ、ハンドリングやブレーキといった緊急時の操作のタイミングがずれてしまいます。
低速な一般道であれば多少遅れても問題ないかもしれませんが、高速道路などを走行している際に0.1秒でも判断が遅れると重大な事故を引き起こすおそれがあります。5Gは従来の4Gに比べて通信の遅延が最大10分の1秒に短縮されており、高いレスポンスを誇ります。
大容量
自動運転において必要不可欠な道路状況の映像をやり取りする際には、4Kまたは8Kカメラで撮影された超高精細な映像が必要です。しかし、超高精細画像はその分データ量も大きく、従来の4Gでは通信に時間を要してしまいます。5Gは4Gに比べて約20倍ものデータ量を通信可能で、瞬時に映像データの伝送が可能です。
多接続
自動車から収集されるデータはカメラ映像だけではなく、気温や位置情報、走行時の音など複数のセンシングデバイスから集める必要があります。それらのデバイスを集約して通信するためには、一度に多くのデバイスとやり取りできるネットワークでなければなりません。5Gは4Gに比べて10倍ものデバイスと同時接続が可能となります。