日本の漁業は現在、漁師の高齢化や後継者不足の問題に直面しています。漁業を持続可能にするためには、作業の効率化や若者への技術伝承が必要です。そこで期待されているのが漁業分野へのIoTの活用です。この記事では、漁業においてどのようにIoTが活用できるのかを紹介します。
目次
漁業分野へのIoTの活用
どのようにIoTが漁業に活用できるか
漁業は天候や海面の状態など自然環境に大きく左右され、漁師の経験や勘に頼る部分も多いです。特に定置網業は、網の中に魚たちが自然に入ってくるのを待たなければならず、人間の都合だけでは安定した漁業が行えません。
そこで注目されているのがIoTの漁業への活用です。今まで漁師の経験と勘で担ってきた漁業を、気象データや海中のセンサデータを収集して、データに基づいて漁業を行おうという仕組みです。
従来の漁業と今後の漁業
今までの漁師の経験や勘に加えてIoTを活用することで、漁業はどのように変わるでしょうか。例えば、「悪天候で海が荒れた翌日は魚が多く獲れるんだ」という漁師の経験から、気象データや海洋データを入手できれば周辺の天候や潮流の変化を把握できれば魚が獲れるタイミングが掴めます。
また、カメラを水中に設置して定置網に入っている魚の量を推測できれば、魚が獲れることを確認してから船を出せます。そのため、計画的な漁業が可能になり人件費も抑えられ、船の燃料コストも削減できます。
また、従来の漁業では年配の漁師から若者へ言葉と実際の作業のみで技術を伝承していました。しかし、IoTを活用して収集した漁獲量データを用いれば、年配の漁師の知識や経験に加えてデータによるノウハウも伝承できます。
カメラとセンサを活用して漁獲量を予測
KDDI総合研究所は2016年7月から総務省の支援を得て、宮城県の漁師と協力しながら漁業IoTの実証実験を行っています。この実証実験では過去の漁獲量と周辺の気象データを活用して漁獲量を予測します。
まず、定置網の周辺に水中カメラと水温・塩分濃度・潮流を計測できるセンサを設置し、海面のスマートカメラブイとスマートセンサーブイを用いて通信局へデータを送信します。カメラからの映像データとセンサからの海洋データはサーバへ蓄積されるのでデータが見える化できます。
さらに漁師からは漁獲量情報が通信局へ送信されます。そして漁師は、スマホやタブレットから蓄積された漁獲量データや気象データ、水中カメラの映像を確認できる仕組みです。そのため漁師は、漁獲量予測に基づいて船を出せるようになり、漁業が効率化しました。
今後は他の共同研究機関の協力も得て、さらに高精度な漁獲量予測の実現を目指しています。
養殖魚の生育状況を遠隔からリアルタイムに確認
NTTドコモは宮城県のカキ・海苔の養殖場で、センサーブイを使った遠隔モニタリングの実証実験を行っています。海上に設置したセンサーブイが水温や塩分濃度を測定しクラウドサーバーに送信する仕組みです。
クラウドサーバーに蓄積された海洋データは、漁師がスマートフォンにダウンロードしたアプリ「ウミミル」で確認でき、作業メモの記載や仲間同士での意見交換も行えます。海水温は湾内の場所によって異なりますが、ウミミルを利用するとセンサーブイを設置した各地点での海洋データが見られます。
今までは漁師の勘や経験に頼っていた養殖も、データを活用して計画的に行えるようになり、現場作業の負担も軽減しました。
ドローンを活用したカワウ対策
河・池などで行う内水面漁業者は、しばしばカワウという鳥がアユを食べてしまう被害に悩まされていました。従来はカワウを追い払うために銃器を使用したり、卵をふ化させないように巣の中へドライアイスを投入したりと対策してきましたが、地形によっては対策が難しい所も多くありました。
そこで現在活用されているのがドローンです。ドローンを使用すると人が行き来できない場所へも上空から立ち入ることができるので、カワウが巣を作る高い木の枝に生分解性プラスチックテープを貼り付け、巣の中にドライアイスを投入し、より効率よくカワウ対策が行えるようになりました。
水産加工品の状態をAIで画像判別
水産加工品の生産工程でもIoTが活用されています。NECソリューションイノベータ株式会社、株式会社極洋、極洋食品株式会社および東北大学大学院工学研究科情報知能システム研究センターは共同で生産工程の見える化の実証実験を行いました。
エビの加工ラインでは従来、人の目によって1級品と2級品を判別ししていました。しかし、熟練の技術者の高齢化と後継者不足によって効率的な判別作業が難しくなっています。
今回の実証実験では生産ラインにカメラを取り付け、映像を撮影しました。撮影したカメラ画像はAIを用いて診断し、個数の計測・1級品と2級品の判別を行います。すると、調理工程では生産個数を99%以上の精度で数えられ、生産ラインにおいても画像1枚あたり0.05秒以内で1級品・2級品の判別を行えるようになりました。
IoTの活用で漁業の効率化
漁業は自然環境に左右されるため、効率的に作業を行うには熟練した漁師の経験や勘に頼ってきました。しかし、漁業分野においてもIoTを活用することで、漁師の経験と勘に加えて海洋データや気象情報、漁師から提供された漁獲量情報に基づいて作業を行えるようになりました。
漁師はスマートフォンやタブレットから情報を確認した上で船を出せるので、漁師の働き方も効率化し、船の燃料も削減できます。
さらに、ドローンを活用するとカワウによるアユの被害も防止しやすくなり、水産加工品の生産ラインにカメラを設置しAIによる画像診断を行うと、熟練した技術者が目を光らしていなくても水産加工品の状態をチェックできます。
漁業分野でのIoTの活用は、漁師や水産加工品技術者の業務負荷低減や効率化に役立ち、持続可能な漁業と水産加工品業が目指せるでしょう。