5Gについて誤解されがちな4つのポイント

5Gについて誤解されがちな4つのポイント 5G・IoT

2020年3月から商用サービスが開始された次世代ネットワーク規格の5G。AIやIoTなどの革新的なテクノロジーと併用することで、これまでにないさまざまな用途に活用できると期待されています。これまでのモバイルネットワークは携帯電話という用途にのみ利用されることが前提となっていましたが、5Gの登場によって活用分野の裾野が拡大していくことは間違いありません。

しかし一方で、さまざまなメディアによって大々的に取り上げられたことによって、一部誤解されがちな表現がされていることもあります。そこで今回は、5Gを正しく理解するために、誤解されがちな内容をいくつか取り上げて紹介します。

あくまでも理論値

そもそも5Gとは、携帯電話用ネットワークシステムの標準化プロジェクトである3GPPによって仕様が作成されているものです。これまで3GPPは3Gや4Gの仕様作成も行ってきた経緯があり、5Gの標準仕様は2018年に完成しました。

これまでの4Gからさらに進化した仕様であり、いくつかの要求条件が定められたのですが、中でも特徴的といえるのが「通信速度」、「遅延」、「接続数」の3点です。あらためて5Gの仕様をおさらいする意味でも、以下の表に整理します。なお、今回は比較対象として4Gの仕様もあわせて記載しておきます。

5G 4G/LTE
通信速度 下り20Gbps 上り10Gbps 下り1Gbps 上り500MbpsE
遅延 1ms(0.001秒) 10ms(0.01秒)
接続数 100万デバイス/平方km 10万デバイス/平方km

もっとも重要なのは、5Gの定義として定められている上記の要件はあくまでも理論値であるということです。これは従来のインターネット回線契約と同様の考え方で、あくまでも一定の条件のもとで通信を行った場合に想定される理想的な数値であり、実際の利用シーンでは必ずしもこの数値が実現できるとは限りません。

5Gを表現する際の例えとして「映画1本を◯秒でダウンロード可能」や「4Gの◯倍の通信速度を実現」といった文言を目にしたり耳にしたりすることも多いと思いますが、これらはあくまでも上記の理論値で比較したもの。そのため、場合によっては4Gと同等の通信速度しか実現できないケースも十分考えられるのです。

低遅延が実現できる範囲

5Gの仕様としては、遅延時間が従来の10分の1である1msであることに間違いはないのですが、これも通信環境によって大きく変わってきます。まず大前提となるのは、この1msという数字は無線間での通信に限られるということ。

もう少し分かりやすく言えば、スマートフォンなどのデバイスと5G基地局間での通信に限定されるという意味です。反対に考えると、5G基地局から先の通信ネットワークを経由してインターネットに接続するとなると、さらに遅延分の時間が加わることになります。

5Gの低遅延特性を活かし、自動運転技術や遠隔手術、スタジアム観戦などへの活用が検討されていますが、従来のようにインターネット回線を経由する方法だと必ずしも実用性が担保できるとは限りません。

また、仮に通信環境そのものの遅延はクリアできたとしても、高画質の動画データなどをやり取りするとなると、エンコード・デコードとよばれるデータ処理も不可欠となるため大幅な遅延が発生する可能性もあるのです。

このように、たしかに5Gによって一部の通信区間は大幅な低遅延が実現でき、それによってトータルでの通信時間も短縮できることは事実なのですが、十分な実用性を担保するためには5Gの技術だけに頼るのではなく、システム構築の際にさまざまな工夫が求められることも事実です。

ある日突然一斉に切り替わるものではない

この春から5Gの商用サービスは開始されましたが、実は2020年5月時点で5Gが利用できるのは都市部を中心としてごく一部に限られます。都市部といっても半径数km単位の範囲ではなく、駅前の一部や特定の建物周辺などといったように、Wi-Fiスポットにも似たエリア展開となっています。当然のことながら全国一斉に5Gが開始されるものではなく、現時点で5G端末を手に入れたとしても日常的に利用できるのはごく一部のユーザーです。

現在の4Gのように全国津々浦々までサービスエリアが展開されていくには、あと数年単位での時間を要するとされています。「せっかく5G対応スマホを購入したのに、自宅や職場周辺はサービスエリアではなかった」ということにならないためにも、事前に情報を確認しておくようにしましょう。

日本の5G整備は遅れているわけではない

5Gの整備状況について海外と比較されることも多く、「日本は進捗が遅れている」という意見も少なくありません。このような意見の根拠となっているのが海外の国々におけるサービスインの時期です。アメリカと韓国では2019年夏に5Gの商用サービスが開始され注目を集めました。しかし、いくらサービスインが早かったとしても、5Gの本質である超高速や低遅延、他接続といった要件を完璧に満たしている状況ではなく、サービスエリアも日本と同様に極めて限定された範囲となっています。

5Gの整備における本当のゴールは、サービスインの時期ではなく現在の4Gのように実用性が高い高品質なネットワークを全国に張り巡らし、日常的に利用できる状況を作り上げることです。そのような意味で考えたとき、日本国内の5G整備が特別遅れているとはいえず、むしろ今後数年単位での競争によって勝負が決まるといって良いのかもしれません。