「5Gは健康に害をおよぼす」は本当か?

「5Gは健康に害をおよぼす」は本当か? 5G・IoT

次世代通信規格「5G」はさまざまな分野での活用が期待されており、今後全国的に基地局が徐々に整備されていく見込みとなっています。「5Gによって暮らしが変わる」「自動運転や遠隔医療などに活用される」など、ポジティブな話題がフィーチャーされがちですが、その一方で人体に及ぼす影響も指摘されています。

しかし、実際のところ5Gは本当に健康被害を及ぼす可能性があるのでしょうか。今回は総務省で公表されている「電波の人体に対する影響」をベースに、分かりやすく解説してきます。

参考サイト:総務省「電波の人体に対する影響」

そもそも「電波」とは

健康被害を及ぼす可能性に言及する前に、そもそも電波というものについて詳しく解説していきましょう。

電波とは「300万MHz以下の周波数の電磁波」と電波法で規定されています。300万MHzとは3THzに相当し、このなかには携帯電話用の電波はもちろん、衛星通信やレーダー、テレビ、ラジオ放送、アマチュア無線に用いられる電波も含まれています。

しかし、ここで疑問になるのが電磁波というもの。じつは電磁波とは周波数にかかわらず「電界と磁界が影響しあいながら空間を伝わっていくもの」と規定されており、この中には赤外線やX線、γ線、紫外線なども含まれます。さらには可視光線も電磁波のひとつであり、照明をつけたときに部屋が明るくなるのも可視光線という電磁波が空間を伝わっているためなのです。

赤外線や可視光線、紫外線などを「電波」と呼んでいないのは、これらの電磁波は300万MHz以上の周波数であるためです。

電波が健康被害を及ぼす可能性

電波が健康被害を及ぼす可能性
紫外線やX線などの電磁波は人体にさまざまな影響を及ぼす存在として知られていますが、一方で300万MHz以下の電波は人体にとってどのような影響を及ぼすのでしょうか。大きく分けて2つの作用が考えられるのですが、それぞれについて解説しましょう。

刺激作用

100kHz以下の極めて低い周波数の電波を長時間浴びていると、ビリビリとした刺激作用を及ぼすことが報告されています。ただし、この周波数帯は船舶無線や航空機用ビーコンなど限られた用途にしか使用されておらず、私たちの日常生活において電波が刺激作用を及ぼすことはありません。

熱作用

100kHz以上の周波数帯の電波を浴びた場合、発熱の作用が働くことがありますが、この身近な例としては電子レンジが挙げられます。電子レンジにはマイクロ波とよばれる2.45GHz帯が採用されており、レンジ内に強い電磁波を照射して加熱する仕組みとなっています。

ただし、このような熱作用が現れるのは、あくまでも強い電磁波を照射した場合に限られています。携帯電話やWi-Fiなどにも同様の周波数帯が採用されていますが、電波の出力が制限されているため私たちが日常生活で熱作用を体感することはないのです。

これまでの研究において、刺激作用と熱作用以外に電波が影響を及ぼすことは報告されていません。したがって、5Gが人体に何らかの影響を及ぼす根拠はなく、携帯電話や基地局の影響によって健康被害が起こると断言できないのが現状です。

「基地局の近くはリスクが高い」は本当か?

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ここからは、5Gにおいて危険性が指摘されることの多い内容について解説していきましょう。まずは<span class=基地局との距離と健康リスクに関するものです。

電波は空間を伝って遠くまで届くため、基地局に近ければ近いほど電波の強度が強く、遠くに離れていくにつれて強度が弱くなっていくと考えられがちです。確かに基地局からの距離が遠ければ電波の強度は下がりますが、近ければ近いほど強度が強いというのは正確ではありません。

実は基地局に建てられたアンテナは一定の方向と距離に向かって電波を照射するように設計されており、基地局の真下よりもむしろ数百メートル離れた地点のほうが電波の強度が強い傾向にあるのです。ただし、基地局のアンテナの高さによっても電波の届きやすい範囲は異なるため、一概に基地局から◯メートル地点と表現することは難しいです。

アンテナバーの数と電波の強度の関連性

アンテナバーの数と電波の強度の関連性
携帯電話が多くの国民に行き渡り、一般的なライフラインとしての役割も確立した今、ほとんどの場所で電波状態が安定した状態で使用できているはずです。しかし、画面上にアンテナバーがつねに4本表示されていると、その分強い電波にさらされているのではないかと考える人も多いはず。しかし、この認識についても必ずしも正しいとはいえません。

日本国内の携帯電話ネットワークは、セル方式とよばれる接続方式を採用しています。これは細かいエリアごとに基地局を設置し、基地局から発する電波の強度を抑える役割を果たしています。また、セル方式はユーザーの移動に合わせて追跡接続することもできます。

アンテナバーが最大値の場合は安定した接続が行われているため、基地局からの電波強度も抑えられていることになります。むしろ、移動中またはアンテナバーの数が少ない場所のほうが電波を出力する強度が強くなる傾向にあるのです。

日本における電波の安全対策

日本における電波の安全対策
日本の通信キャリアでは、基地局から発する電波の強度および設置場所なども考慮し、きわめて高い安全対策が施されています。これは総務省が定める「電波防護指針」に沿ったもので、研究結果から導き出された安全の基準値よりも50倍の安全率が定められています。

また、仮に基地局周辺で安全対策の基準を超えるような場所があった場合は、周囲を柵で囲うなどして一般の人が立ち入ることができないような工夫も施されています。
世界のさまざまな国では「5Gによる健康被害」というタイトルで報道されていますが、確実にそれが5Gの影響によるものなのか、エビデンスとともに確定となった情報はないのが現状です。

もっとも重要なのは、それが本当に信頼できる情報なのか、どのような根拠をもとにした内容なのかをしっかりと見極め、デマやフェイクニュースに踊らされないリテラシーを身につけることといえるでしょう。