スマートフォンやスマートウォッチなど、「スマート」という言葉がつくデバイスが続々と登場していますが、「スマートシティ」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。
その名の通り街全体をテクノロジーの力によって進化させるものですが、とりわけエネルギーの効率化という意味で使われることも多い言葉です。
そしてスマートシティの実現には5GやIoTといった先進技術が欠かせないといわれています。
そこで今回の記事では、スマートシティとは何なのか、なぜ5GやIoTの技術が必要不可欠とされているのかも含めて詳しく解説していきます。
目次
そもそも「スマートシティ」とは?
スマートシティの「スマート」とは、賢い、ハイテクといったニュアンスで使われます。まさにスマートフォンやスマートウォッチなどのイメージの通り、これまでにない革新的なサービスや仕組みを表現するうえで最適な単語といえるでしょう。
そのため、スマートシティは近未来的な施設や街並みといった意味にとらえられがちです。たしかにそのような意味で使われることもありますが、実際にはエネルギー効率を向上させた「スマートグリッド」や「BEMS」、「HEMS」などを活用するテクノロジーとして使われることが多いです。
そもそも電力は大量に蓄積しておくことができないため、電力会社は需要を予測しながら最適な発電量を維持しています。
しかし、ビッグデータやAI、5Gなどのテクノロジーが活用されるようになると、過去の膨大なデータから現在よりもはるかに精度の高い予測ができるようになり、需要と供給の電力量が限りなくイコールに近い数字になります。これによって本当に必要な電力量だけを発電し、エネルギーのロスを減らすことにつながっていくと考えられています。
スマートシティの代名詞「スマートグリッド」
スマートシティという言葉を説明するとき、必ずといって良いほどスマートグリッドの話題が出てくるため、両者は切っても切り離せない密接な関係にあります。
スマートグリッドとは日本語で「次世代送電網」とよばれ、電力を供給するインフラとして革新的な役割を果たします。
通常、発電所で作られた電力は送電線を伝って一般家庭や企業に送られます。電力は一方的に送られるのみで、送電する以外にインフラとしての役割はありません。
しかし、スマートグリッドで構築される送電網は違います。電線そのものは同じものを使用しますが、送電網の一部に専用のデバイスを組み込むことによって、家庭や企業など電力を消費する側の情報もやり取りできるようになります。
この仕組みによって、各家庭の消費電力の状況と今後の予測などが立てやすくなり、ソーラーパネルなど再生可能エネルギーを一定のエリアごとにシェアすることも可能になります。
とりわけ工場や大規模な店舗など電力消費量が大きい場所は敷地も広大なところが多い傾向にあります。このようなポイントにソーラーパネルや風力発電施設をつくり、一部でも電力を自前で賄うこともできます。
スマートシティに5Gが欠かせない理由
スマートシティやスマートグリッドを実現するために、なぜ5Gが重要とされているのでしょうか。その理由を詳しく見ていきましょう。
まず、スマートグリッドを活用して各家庭や企業の電力消費量を把握するためには、センサーデバイスを活用したセンシングシステムの構築が必要不可欠です。温度や湿度はもちろん、どのような家電を使用しているのか、それぞれの消費電力も含めて情報を集めなければなりません。
このようなセンシングデバイスはIoTを活用してネットワークに接続する必要があるのですが、家庭内にあるさまざまなデータを収集しようとすると膨大なデバイスとネットワーク上でデータをやり取りしなければならなくなります。
従来のネットワークだと一度に接続できるデバイス数も限られており、このようなシステムを構築するのはあまり現実的ではありませんでした。しかし、5Gには「多接続」という特性があり、1平方キロメートルあたり100万ものデバイスを接続できます。
また、同時に通信速度も最大20Gbpsを誇り、これは従来の4Gに比べて20倍にあたります。一つひとつのセンシングデバイスのデータ容量は小さくても、社会全体で考えたときに膨大な量のデータ通信に耐えうる5Gはスマートシティを実現するうえで重要な技術といえます。
スマートシティによって世の中はどう変わる?
スマートシティが実現されると、これまで長年にわたって課題とされてきたエネルギー問題が一歩解決に近付くことになります。電力は常に需要よりも供給量が多くないと、大規模な停電が起こり日常生活に大きな支障をきたしてしまいます。
長年にわたって電力供給が行われ、各電力会社は年間を通じてどの程度の需要になるのか正確に予測するノウハウをもっています。しかし、5GやIoTによってスマートシティが実現されると、さらに精度が高く正確な予測値が算出できるようになります。
このような社会の仕組みを「超高サイクル管理」とも呼びますが、あらゆるモノがネットワークに接続され、同時にAIの進化やビッグデータが収集されるなど、多様な要素が絡み合ってスマートシティは実現されます。
発電コストや送電コスト、さらには人件費も抑制されるため、長期的に見たときに電力料金も安くなる恩恵を受けられる可能性も十分考えられるでしょう。もちろん、エネルギーの無駄がなくなるため地球環境にも優しいエネルギー管理も実現されます。
スマートシティを実現させた事例
画像引用元:柏の葉スマートシティツアー
スマートシティに取り組む都市は世界に多く存在していますが、今回は分かりやすい事例として日本国内での事例を紹介しましょう。
千葉県柏市にある柏の葉キャンパスでは、「柏の葉スマートシティ」が造られ、県や市、民間企業や大学が連携しながらさまざまな取り組みを行っています。柏の葉スマートシティが打ち出しているコンセプトは大きく分けて3つ。「環境共生都市」、「新産業創造都市」、「健康長寿都市」です。
スマートグリッドを実現することによって実現される環境共生都市はまさに街のインフラを担う根幹部分です。「AEMS」とよばれるエネルギー管理システムを構築し、エリア全体でエネルギーの最適化を行っています。
また、平時はもちろんですが万が一の災害時にも電力を確保できる仕組みを確立。電力融通装置や蓄電池、太陽光発電システムなどを併用しながら、停電時でも6割程度の送電を可能にし、3日程度は維持できるようになっています。
このような独自の取り組みは、多くの大学や民間企業からも注目を集めています。スマートシティの仕組みを参考に新たなビジネスモデルの構築を検討する企業も多く、新たな産業が生まれる「新産業創造都市」が実現されています。
しかし、街のインフラが発展したとしても、そこに住む人が幸せで健康でなければ意味がありません。そこで、柏の葉スマートシティには医療機関なども多く進出し、街を挙げて住民の健康増進に取り組んでいます。
柏の葉スマートシティの事例は日本国内で特に象徴的なものですが、今後テクノロジーの発展とともにこのような事例はますます増えてくるものと考えられます。