5Gと聞くと単に「通信速度が高速化した電波の規格」と考えられがちですが、実は携帯電話以外にもさまざまな分野での活用が検討されています。
スポーツ観戦や音楽ライブの鑑賞などに代表されるエンタメ体験もそのうちのひとつ。今回の記事では、5Gによってエンタメの世界はどのように変わっていくのか、さまざまな場所で行われている実証実験の例なども含めて詳しく紹介していきます。
目次
5Gが可能にする高臨場感のエンタメ体験
スポーツ観戦や音楽ライブの鑑賞などはテレビや動画サイトなどを通して楽しむこともできますが、迫力ある臨場感を求める人のなかには実際に会場で楽しむことにこだわっているケースも少なくありません。
自宅にいれば無料で中継映像などを見ることができるのに、わざわざ交通費や参加費を払ってまで現地に行って参加するのは、その会場でしか得られない迫力ある体験が待っているというのが大きな理由です。
チケット販売大手のぴあ株式会社の調査によると、音楽フェスの動員数は年々増加傾向にあり、2014年以降は大台の200万人を突破。それにともなって音楽フェスの市場規模も年々拡大しています。
かつて音楽の楽しみ方といえば、CDを購入したりラジオを聴いて楽しむといった方法が一般的でしたが、インターネットの普及によってダウンロードやストリーミングが一般化。それにともなって音楽がより身近で手軽に楽しめるものになり、よりリアリティのあるライブやフェスといった参加型のイベントが支持されるようになってきました。
画像引用元:ぴあ
このようなトレンドは今後も加速していくものと考えられ、音楽というジャンル以外にもスポーツや舞台といった範囲まで広まってくる可能性は十分あります。しかし、動員数が増えれば増えるほど多くの来場者に対応できる会場も限られ、場所の確保が難しいといったジレンマを抱えることにもなります。そこで注目されているのが、5Gを活用して自宅にいながらもエンタメ体験ができるシステムです。
従来のテレビ中継などでは比べ物にならないリアルで臨場感あふれる映像が5Gの高速通信によって実現できるようになります。
5Gのエンタメ活用に欠かせないウェアラブルデバイス
5Gを活用したエンタメ体験において重要なキーワードとなるのが、「没入感」です。その名の通り周囲の状況にとらわれることなく集中できる環境を用意しなければなりません。一般的なモニターやスピーカーでも良いですが、没入感という意味で注目されているのがヘッドマウントディスプレイなどのウェアラブルデバイスです。
デバイスを身につけることによって映像と視界をゼロ距離とし、周囲の環境や人が入ってこないようにすることができます。これによって従来のモニター映像では体験できない、超没入感を体験できるようになります。
マルチアングル観戦も可能にする5G
5Gを活用したエンタメ体験は遠隔地にいる人に向けて提供されるだけではなく、現地で観戦している人にとっても新たな体験を提供します。その代表的な事例がマルチアングル観戦とよばれるものです。
マルチアングル観戦とはその名の通り、さまざまな角度から自由にスポーツ観戦やライブ鑑賞を可能にするというもの。大きなスタジアムではマルチスクリーンがありますが、これまではスクリーンに投影される映像を全ての人が共有し、画一的な映像しか楽しむことができませんでした。
しかし、マルチアングル観戦を活用すると、たとえば野球観戦においてはバッターボックスの後方から撮影された映像、一塁側または三塁側から撮影された映像など、そのシーンに応じて自由にアングルを切り替えて楽しむことができます。
これはスタジアム内に複数のカメラで撮影し、リアルタイムで複数の映像を流すことによって実現されます。会場で観戦している人はスマートフォンやタブレット端末経由でそれぞれのアングルから楽しむことができ、今自分が観たい映像を自由にカスタマイズして観戦できます。
このような技術を応用すれば、たとえば音楽ライブでは特定のメンバーだけにアングルを固定できたり、ステージ後方からの映像でアーティストと同じ目線でライブを楽しむこともできるでしょう。
5Gを活用したエンタメ体験の実例
5Gを活用したエンタメ体験は遠隔地でも現地の会場でもさまざまな楽しみ方がありますが、実際に実証実験として試験提供されたケースもあります。いくつかの事例をご紹介しましょう。
ラグビーワールドカップでのマルチアングル観戦
NTTドコモは2019年に開催されたラグビーワールドカップにおいて、8つの試合会場で5Gを活用したマルチアングル観戦を試験提供しました。
会場内には7台の専用カメラが設置され、さまざまな角度から試合を撮影。会場内であれば専用のスマートフォン端末からマルチアングル観戦ができるようなシステムを構築していました。
また、より試合観戦を楽しめるように4つのモードを用意。従来のテレビ中継のような「FOCUSモード」以外にも、グラウンド全体を俯瞰で見やすい「TACTICSモード」、AIの画像解析を併用した「STATUSモード」、ハイライトシーンのリプレイ映像を自由に観られる「REPLAYモード」が提供されました。
画像引用元:NTTドコモ
ドローンレースで低遅延のライブ中継
2019年11月、東京モーターショー内でのイベントとして国内初となる本格的なドローンレースが行われました。
出場者は専用のヘッドマウントディスプレイを装着し、ドローンで撮影された映像をもとに操作。その映像は会場のモニターに映し出され、臨場感あふれるレース展開を体験できます。
映像をライブ中継に活かす場合、ネットワークの遅延が大きな課題となります。とりわけ今回実施されたドローンレースは、1つのレースが30秒程度で決するスピード感のため、レースの進行と映像に遅延が生じてしまうと致命的です。
そこでKDDIが会場内に臨時の5Gアンテナと基地局を設置し、ドローンレースの様子を5Gを経由して会場内のモニターに投影。さらにはインターネットによる中継も行われ、文字通りリアルタイムでの中継を可能にしました。
画像引用元:KDDI
5Gで実現される革新的なエンタメの世界
今回紹介した5Gのエンタメ体験の事例は実証実験の段階であり、いずれも本格的な実用化に向けて各社が取り組んでいる状況です。しかし、いずれのサービスも5Gを応用した革新的な取り組みであり、今後私たちの生活のなかで身近な存在になっていくものと考えられています。