IoTやビッグデータを活用した業務効率化が叫ばれていますが、ITに関連性の低い分野で働く人のなかには「うちには関係ない」と考えている方も多いのではないでしょうか。
実はIoTは一次産業や二次産業にこそ重要で、うまく活用することによって業務負荷を大幅に軽減できる力を秘めているのです。
そこで重要になるのがLPWAという技術です。今回の記事では、IoTによるシステム化を実現するうえで欠かせないLPWAとは一体何なのか、詳しく解説していきます。
目次
LPWAとは
LPWAとは「Low Power Wide Area」の略称です。その名の通り、可能な限り消費電力を抑えて通信を行うもので、近年注目されている先進的な技術であるIoTの実現に向けて必要不可欠とされています。
通常、Wi-Fiなどのネットワークは屋内で半径数十mまたは数百m程度の通信距離ですが、LPWAを活用すれば最大50km程度までの遠距離通信が可能となります。
ただし、通信速度は極端に低速で、100kbps(0.1Mbps)程度に限定されます。そのため、スマートフォンなど一般的なインターネット用端末としての通信手段というよりも、M2MやIoTなど極めて限定された用途に活用する方法が検討されています。LPWAの通信速度も規格によって異なり、なかには200kbps以上の速度が出るものも存在しています。
また、LPWAの消費電力は極めて低く設計されており、ボタン電池1個で数年単位で交換が不要になるなど、IoT端末として理にかなった用途が見出せます。
このように、LPWAの特徴をまとめると「低速」「省電力」「広範囲」という3つのポイントがあることが分かります。
IoTの実現に向けてLPWAが注目されている理由
通常のインターネット回線に比べて極めて低速なLPWAですが、なぜIoTやM2Mなどの用途に検討されているのでしょうか。そこにはIoTの仕組みが関係しています。
IoTやM2Mといった技術は、さまざまなデバイスにセンサーなどを取り付けてビッグデータを収集することが大きな目的です。たとえば農業へのIoTの活用事例を見てみると、ビニールハウス内の気温や湿度の管理、田畑の水温や気候情報の収集などが挙げられます。
また、工場などの製造現場においては、生産用機器の稼働データなども収集しているケースがあります。このようなデータは、基本的なデータを数値化してコンピュータに送るだけなので、通信しているデータの中身自体はそれほど大容量である必要がありません。それよりは、いかに遠くに飛ばせるかということと、電源の確保が重要な問題になります。
このようなIoTやM2Mにおける課題をクリアするためには、一般的なWi-Fiやモバイルネットワークよりも、LPWAのほうがセンサーを取り付けやすく情報も収集しやすいメリットがあるのです。
もちろん、IoTの用途のなかには映像や音声データなどの比較的大容量のデータを扱わなければならない場合もありますが、そのような制約がない場面においてはLPWAとうまく使い分けることで設定もしやすく、ネットワーク上に流れるトラフィックも制御しやすいというメリットがあります。
LPWAには2種類ある
LPWAは低速・省電力・広範囲の通信を可能にする通信規格のひとつですが、そもそも2つの種類があり、それぞれ場面に応じて使い分ける必要があります。電波という共有の資源を使うため、LPWAはライセンス(免許)が必要なライセンス系のバンドとライセンスが不要なアンライセンス系のバンドが存在します。それぞれについて詳しく解説しましょう。
ライセンス系
ライセンス系のLPWAは携帯電話用ネットワークを活用しており、大手通信事業者の通信網が使用されることから個別に利用手続きが必要です。通信事業者が提供しているモバイルネットワークは、「3GPP」とよばれる通信規格の標準化団体によって規定されているため「ライセンス系」と定義されています。
アンライセンス系LPWAに比べるとカバーエリアが広範囲で多様な用途に活用できるのが大きな魅力。ただし、その分運用コストも高くなってしまいます。ライセンス系LPWAには以下のような複数の規格が存在します。
- NB-IoT
- LTE-M
- Cat.NB1
アンライセンス系
ライセンス系とは異なり、比較的導入のハードルが低いのがアンライセンス系のLPWAです。別名「特定省電力無線」と呼ばれることも多く、Wi-Fiルーターのように利用するために免許や資格がなくても簡単に利用できるのが大きなメリット。当然のことながら、ライセンスが不要であるため導入や運用のコストも安価です。
一方で、自前でネットワークを構築する必要があるほか、周波数帯もライセンス系の規格とは異なるため通信可能なエリアの広さという意味ではライセンス系に軍配が上がってしまいます。あくまでもWi-Fiのように一定のエリア内でのみ限定的に利用することが大前提となるでしょう。
ライセンス系LPWAには以下のような複数の規格が存在します。
- SIGFOX
- LoRaWAN
- Wi-Fi HaLow
- Wi-SUN
- ELTRES
- RPMA
- Flexnet
- IM920
LPWAの活用が期待される分野
LPWAをIoTに活用することによって、さまざまな分野におけるビジネスが大きく変化していくと期待されています。なかでも注目されているのが以下のような業界です。
工場などの生産現場
日々さまざまな製品を生産している工場などの製造現場において、LPWAは重要な役割を果たすと考えられています。すでに生産工程は自動化が進んでいるものの、製造機械のメンテナンスや故障時の対応には専門的な知識をもった人材が不可欠です。
そこで、IoTを活用したファクトリーオートメーションが求められています。たとえば製造機器の異音や温度の上昇などを検知することで、故障の前兆を把握できたり、生産工程における致命的なロスを未然に防ぐことも可能になります。
故障が起こりやすい、または異常を検知しやすい部分にLPWAに対応したIoTセンシングデバイスを装着することによって、ファクトリーオートメーションに一歩近付くことになるでしょう。
物流業界
物流業界において欠かせないのがトラックやトレーラーなどによる陸送です。全日本トラック協会における調査によると、国内貨物輸送の実に9割以上はトラックやトレーラーによる陸送とされており、圧倒的な比率を占めています。
しかし、高速道路での事故やトラブルのリスクがあり、ドライバーにとっても日々の走行前の点検作業は負担の大きい作業です。
あまりにも長時間の走行が続いたり、積載している荷物の重量がオーバーしているとタイヤにかかる負担も大きくバーストを引き起こすケースが考えられます。そこで、タイヤの内部にセンシングデバイスを装着し、タイヤ内の温度を常に把握しバーストを未然に防ぐといった用途にもLPWAの技術が活用できます。
LPWAとIoTによって変わる未来の働き方
LPWAは極めて単純な仕組みで、一見活用できる用途は限定されてしまうのではないかと考える人も少なくありません。しかし、シンプルな仕組みだからこそ、さまざまな業種に対応できる汎用性があると考えることもできます。
特に生産現場や物流現場など、これまで作業者の肉体的負担が大きかった業種においては、IoTとLPWAをうまく活用することによって大幅な作業効率化が進み、働き方が変化していくはずです。