LiDERとは?新型iPad Proへの搭載でも注目され始めた驚くべき機能

LiDERとは

レーザー光によるセンシング技術のひとつとして知られている「LiDER」というものをご存知でしょうか。

これまでさまざまな科学分野において活用されてきたのですが、2020年3月に登場した新型iPad Proへ搭載されたことによって多くの人がそのテクノロジーに手軽に触れられるようになりました。

一見難しそうに見られるLiDERという技術ですが、その原理を知ると意外なほどに単純なものであることが分かります。

今回の記事では、LiDERとはどのような技術なのかを詳しく解説するとともに、具体的な用途や今後期待される機能も含めて紹介していきます。

LiDERとは

LiDERの基礎知識

LiDERとは「Light Detection and Ranging」の略称です。一言でいえば「レーザーを照射して物体との距離や形を把握するための技術」で、2020年3月に発表された新型iPad Proをはじめとしてさまざまなものに活用されています。

そもそもLiDERとは最近になって新たに登場した技術ではなく、もともとは1990年代から存在していたものです。遠距離からでも正確に物体との距離を測れるというレーザー光の特性を活かし、構造物や地形の測量を実行するための技術として生まれました。

通常の測量では物理的に計測が難しい海底の地形も、LiDERを活用することによって深さ数十m程度まで測れるようになったという実績もあるのです。

また、私たちの生活において身近な用途としては、気象観測におけるさまざまな物体、粒子の検出にも対応できることが挙げられます。これはLiDERで照射されるレーザー光は、大気中に存在する細かな粒子よりも小さいためです。

たとえ人間の目には見えない粒子があったとしても、LiDERを活用することで上空のどの位置に水蒸気が多いのか、またはPM2.5などの細かな粒子が浮遊しているのかなどの情報を計測できるようになっています。

このように、気象情報や大規模な測量などに使用されるLiDERの機器は大型ですが、一方で技術の進化によって大幅に小型化されたLiDER用のセンサー機器も登場しています。今回発表された新型iPad Proへの搭載も、その典型的な事例といえるでしょう。

LiDERの応用的な用途

LiDERの応用的な用途
気象観測や測量など、従来の代表的な用途以外にも、LiDERはさまざまな用途への活用が検討されています。なかでも次世代に期待されている応用的な方法をいくつかご紹介しましょう。

宇宙産業

宇宙船に搭載したLiDERからさまざまな情報を取得するという手段は以前から検討されており、実際にすでに取り組んでいる事例も数多く報告されています。

典型的な事例としては、月面からの距離の測定実験です。月に専用の鏡のようなものを設置し、そこにLiDERを照射。月との正確な距離を計測することによって、物理学など専門的な研究に役立っています。

また、月に限らず、宇宙船に搭載されたLiDERを活用することで、さまざまな惑星の地表または大気中にある物質の計測にも役立っているほか、地表の正確な形状を測量することも可能になっています。

自動運転技術

自動運転技術
自動車産業の未来を支える技術として注目されている自動運転ですが、これを実現するためにもLiDERは重要な役割を果たします。

通常、私たち人間が自動車を運転する場合、道路上に障害物や人が立っていたら視角によって認識し、徐行や停車をして事故を未然に防ぎます。

しかし、そもそも自動車の場合、そこに映っているものが人間なのか建物なのか、ただの落下物なのか把握することはできません。あくまでもカメラで撮影された映像は二次元に映っているため、何を根拠に判断すれば良いのか分からないのです。

人間の場合は長年の経験によって視角から得た情報を瞬時に分析して正しく認識できますが、自動運転技術では根拠となる情報がないのです。

そこで、道路に障害物などがある場合を想定して、進行方向上に走行を邪魔するものがないかを把握できるようなシステムが求められます。ここで活躍するのがLiDERを活用したセンシング技術です。障害物との距離を瞬時に計測し事故を未然に防ぐためにも、自動運転技術においてLiDERは必要不可欠なものといえるでしょう。

AR

AR
私たちがLiDERの力を身近に感じられるもののひとつにAR(拡張現実)があります。新型iPad ProにLiDERが搭載されたと紹介しましたが、実はこのARをiPad Pro上で体験する際にLiDERの技術が重要になります。

これまでiPhoneなどの機能でARを活用したアプリや機能は存在していましたが、空間を正しく認識できるまでに多少時間を要していました。

しかし、今回搭載されたLiDERによって、空間認識にかかる時間が大幅に短縮されたほか、複雑に入り組んだ空間も瞬時に認識できるようになったのです。

たとえば「複数段のラック上にARで物を置いてシミュレーションしたい」という場合でも、よりリアリティのあるARで表現が可能になっています。言葉ではなかなか表現が難しいですが、アップルのホームページにARの特設サイトがあるので、そちらを確認してみると直感的に理解できるかもしれません。

Apple公式サイト

LiDERの進化と現実化する近未来

今回紹介してきたように、LiDERという技術そのものは決して目新しいものではありません。むしろ基本的な原理はレーザー光の照射によって距離を測るという単純なもので、これまでさまざまな用途に活用されてきたものでした。

しかし、iPad Proのような小型のデバイスにも組み込まれ、私たちが手軽に利用できるようになったことで、その可能性は一気に広がろうとしています。今回紹介したARのようなエンタメ分野への活用はもちろんですが、より実用的な自動運転技術などにも本格的に検討されはじめました。

これまでアニメや映画でしか実現できないと思われてきた近未来的な生活も、LiDERをはじめとしたさまざまな先進的なテクノロジーによって現実のものになろうとしています。