働き方改革の実現に向けてIT関連のテクノロジーを活用した業務効率化が求められていますが、そんな中で「デジタルトランスフォーメーション」という言葉が注目されるようになりました。企業経営者はもちろんですが、そこで働くIT部門や実務部門の担当者の間でもデジタルトランスフォーメーションの実現は大きな課題となっています。
今回の記事では、デジタルトランスフォーメーションとは何なのか、具体的な事例とともに活用事例なども合わせて解説します。
目次
デジタルトランスフォーメーションとは?
デジタルトランスフォーメーションとは、デジタル関連の技術であるITの力を活用し、これまでのビジネスモデルや働き方を改革していく取り組みを指す言葉です。
デジタルトランスフォーメーションという言葉を日本語に直訳すると「デジタルへの変革」となります。「DX」と表記されることも多く、経済産業省をはじめとして国全体でDX化に向けて取り組みがスタートしました。すでに多くの企業はITツールを導入し多様な業務に活かしている現状がありますが、DXというのはさらに大きな範囲における改革を意味しています。
もっと具体的に言えば、企業の管理部門や実務部門などに限定したものではなく、経営層までをも巻き込み、デジタル技術を活用したビジネスの仕組みそのものを変えるほどのインパクトをもたらすのが本当の意味でのデジタルトランスフォーメーションということになります。
混同されやすいデジタライゼーション
これまでビジネスへのIT活用といえば、人の手によって行われていた業務を効率化するためにシステムを構築するというケースが圧倒的大半でした。たとえば経費申請や勤怠情報管理などのワークフローはその代表的な事例といえるでしょう。従来まで書類によって管理されていたものを、ワークフロー化することによってペーパーレス化し、申請側と承認側ともに効率的な方法を実現するというものです。
ITの力によってアナログ的な業務から解放されるという意味ではデジタルトランスフォーメーションのイメージに近いですが、このような事例はデジタルトランスフォーメーションではなく「デジタライゼーション」という言葉が的確です。
単にIT技術によって業務を効率化するのであれば、経営層まで巻き込まなくても部署内で解決できる問題です。ビジネスの現場においては、「デジタル化=デジタルトランスフォーメーション」と捉えられているケースが非常に多く、もはや一般化しつつあります。
しかし、本来の意味としてはデジタルトランスフォーメーションとデジタライゼーションはまったくレベルの異なる話であり、今後テクノロジーが発展していくことによってその差は明確になっていくものと予想されます。
デジタルトランスフォーメーションの事例
デジタルトランスフォーメーションの定義として漠然とした内容が続いてきたため、具体的にどのような事例がDXにあたるのかイメージしづらいという人も多いことでしょう。
そこで、ここからはDXに相当する具体的な事例をいくつか紹介していきます。
自動運転技術を活用した交通手段
地方におけるタクシーやバスなどの公共交通機関は、なかには採算が取れないという理由で廃止に追い込まれてしまうケースが少なくありません。当然のことながら運賃収入が低下するとドライバーの人件費ばかりがかかってしまい、やむを得ず事業を継続していくことが困難になってしまうためです。
しかし、自動運転技術が実現すると、無人であってもバスやタクシーなどの事業が展開でき、友人運転に比べても最小限のコストで運営できるようになります。都市部に比べて交通量が少ない地方では、自動運転による制御も比較的簡単で実現しやすいことも大きなメリットとして考えられます。
スマートファクトリー
工場などの生産現場におけるデジタル化を意味するのがスマートファクトリーです。たとえば温度や湿度をIoTのセンシングデバイスで取得し、そのデータを制御用のセンターへ送信。AIによって適切に判断し、空調の調整を行うこともできます。多くの生産現場ではすでに生産用ロボットが導入されているため、あえてデジタル化の必要性に疑問を感じる人も多いと思います。
スマートファクトリーの最大のメリットは、生産機械のメンテナンスや故障検知などにも活用できるという点が挙げられます。たとえば機器の温度変化やベルトの摩耗具合、機器から発する音などを聞き分け、AIが自動的に故障の前兆をつかむこともできます。
長年の経験や勘によって生産機械のメンテナンスを行ってきた作業員の負担を大きく軽減でき、生産性の向上にも期待できます。
遠隔診療・ヘルスケア
医師不足に悩む医療法人などに有効なのが遠隔診療の技術です。たとえば4K、8Kレベルの超高画質映像を遠隔地に伝送し、外来患者の簡単な診察に役立てることもできるでしょう。医療体制の構築が難しい地方においても、遠隔診療が実施できれば住民の不安や通院の負担軽減にも大きく貢献できるはずです。
現時点では視覚や聴覚などの情報をもとに診察できるものに限定されてしまいますが、テクノロジーの発展によって遠隔手術などにも対応できる未来がやってくるかもしれません。
デジタルトランスフォーメーションは社会課題を解決
ここまでデジタルトランスフォーメーションの事例として紹介してきたものに共通しているのは、さまざまな社会的課題を解決できるということです。一企業の営利を目的としたものというよりは、デジタル技術によって救われる命があり、生活の質の向上にもつながります。
ITへの投資は資金に余裕がある企業だけが取り組めるもの、という認識の中小企業経営者も多いですが、今後業種を問わずITによる恩恵を受ける時代になることは確実といえます。インターネットやクラウドサービス、スマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスによってライフスタイルは変わってきました。企業においてはテレワークなどのニーズも高まっている現状がありますが、これらのような動きは今後ますます活発化していくと考えられます。
「うちの会社はITとは無縁だから関係ない」と切り捨てるのではなく、自社のノウハウとITをかけ合わせることによって新たなビジネスモデルが見つからないか、ということを考えていく必要があります。その際のひとつの考え方として、多くの人が困っているような社会的課題に照らし合わせてみるのが良いでしょう。
経済産業省は2020年度中を目処に、DXに積極的な企業を対象とした格付けである「DX格付」をスタートする計画です。DXに取り組む企業が評価され、企業価値にも直結していくことから考えても、デジタルトランスフォーメーションがいかに経営において重要な取り組みであるかが分かるはずです。
企業経営者はもちろんですが、ITに関連が深い情報システム部門やその他管理部門、営業などの実務部門の担当者も、広くデジタルトランスフォーメーションについて知見を深め、自社でどのような活用ができるのかを検討してみてください。