テレビや新聞、雑誌などのメディアで目にしない日はないほどメジャーな存在となった「5G」。これまで3Gや4Gといった電波が使用されてきた歴史もあることから、携帯電話の新しい電波の規格であることは分かると思います。
しかし、実際のところ5Gによって何が変わるのか詳しく理解している人は決して多くありません。
そこで今回の記事では、5Gの基本的な内容はもちろん、5Gの特徴や活用事例なども含めて詳しく解説していきます。
目次
次世代携帯電話ネットワークの5G
5Gを知るうえで避けて通れないのが携帯電話ネットワークの歴史です。5Gの「G」とは「Generation(=世代)」を表しており、その名の通り5世代目にあたるネットワークということになります。まずは1Gから始まった携帯電話ネットワークがどのような変遷を経て5Gに至っているのか見ていきましょう。
1G:1980年代
初めて電話が屋外で利用できるようになったのは、1970年代に登場した自動車電話、そして1980年代に登場したショルダーホンが先駆けです。当時の電話はアナログ方式での接続となっており、当然のことながらメールなども利用できず、その用途は電話のみに限られていました。また、現在のように普及率は高くなく、一部の富裕層やビジネス向けに提供されていたものが中心でした。
2G:1990年代
長く続いたアナログ方式が1993年に終了し、同時に登場してきたのがデジタル方式の2Gとよばれる回線です。いわゆる「ガラケー」がこの頃から本格的に普及し始め、同時にPHSも登場。PHSは安価な通話料金を売りに契約数を伸ばしていきました。デジタル回線に以降したことによってメールやインターネットも利用可能になり、メール文化が普及したのも携帯電話の影響が大きいです。
3G:2000年代
2Gの登場によってメールやインターネットなどは利用できるようになったものの、通信速度は限られておりパケット通信は限られた用途にしか活用されていませんでした。しかし、2000年代前半に3Gとよばれる新たな規格が誕生し、通信速度は飛躍的に向上。携帯電話で動画を見たりテレビ電話などを楽しむことも可能になりました。
4G(LTE):2010年代
現在広く普及しているのが4GまたはLTEともよばれる通信方式です。言わずもがなiPhoneをはじめとしたスマートフォンに活用されている規格で、4Gの登場によってスマートフォンが爆発的に普及したといっても過言ではありません。3Gと比較して通信速度は数十倍以上速くなり、最大1Gbpsを誇ります。これによってインターネット接続環境はパソコンからスマートフォンへ移行し、SNSや動画サイトなど多様化も進みました。
5G:2020年代
1Gから4Gはいずれも携帯電話というデバイスのために使用する電波でした。しかし、2020年代以降に本格的に普及する5Gは携帯電話という枠を飛び越え、さまざまなデバイスがネットワークに接続される時代に突入します。
スマートフォンがますます高速化することはもちろんですが、それ以外にも多様なデバイスがインターネットに接続され、世の中全体が大きく変わっていくことになります。いわゆるガラケーからスマートフォンへ移行したような限定的なものではなく、さらに大きなパラダイムシフトが5Gの登場によって起ころうとしているのです。
5Gの特徴
5Gは従来の4Gに比べてどのような特徴があるのでしょうか。主なポイントである3つの内容を紹介します。
高速・大容量
これまで携帯電話ネットワークが高速化してきたように、4Gから5Gへの進化においても劇的に通信スピードは速くなります。4Gの最大速度は1Gbpsでしたが、5Gでは20倍の20Gbpsに進化。4Kや8Kレベルの高画質映像も大きな負荷がかかることなく伝送できるようになります。もちろん、実測値としては20Gbpsが出ることはありませんが、4Gに比例して大幅に通信速度が向上することは間違いありません。
低遅延
普段のインターネットにおいて通信の遅延は実感することがない方も多いと思いますが、実は4Gの場合10ms(=100分の1秒)程度の遅延が発生しています。これはあくまでも理論値であるため、通信環境によっては0.1秒単位での遅延が発生していることも珍しくありません。5Gではこの通信遅延が大幅に減少し、1ms(=1000分の1秒)を達成しています。
多接続
4Gネットワークの場合、ひとつの基地局に大量のユーザーが集中すると通信が遅くなる、または最悪の場合接続できなくなってしまうこともあります。4Gは1平方キロメートルあたり最大10万デバイスが接続できる仕様ですが、5Gになると約10倍となる100万デバイスが接続可能になります。
5Gが注目される理由
ニュースなどで連日報道され、世界情勢にも大きな影響を与えている5Gですが、そもそもなぜこれほどまでに注目されているのでしょうか。その裏には3Gや4Gとは全く異なる5Gならではの用途や特性が関係しています。
まず大前提として、5Gは単体での活用ではなく、AIやIoT、ビッグデータなどの次世代を担うテクノロジーと併用することで初めてその真価を発揮できます。3Gの裏には携帯電話の進化が、4Gの裏にはスマートフォンの登場があったのと同様に、5Gもさまざまなデバイスやテクノロジーが駆使されて発展していきます。
たとえばカメラで撮影した映像をもとにAIがさまざまな判断をするシステムを構築する場合は、高精細な映像を伝送するために高速・大容量の特性が活かせます。
また、リアルタイム性を要求される場合は低遅延という特性も重要になってくることでしょう。さらに、IoTデバイスから得られるさまざまなセンシングデータを集めるためには、従来よりも多数のデバイスを同時に接続できる多接続の特性が有効です。
これらの特性を活かすことによって、5Gは携帯電話だけではなく幅広い産業に活用され、自動化や効率化を実現できると期待されています。5Gが単なる携帯電話ネットワークではなく、世界中で注目されているのはあらゆる産業を変革するほどの力を秘めていることが大きな理由として挙げられます。
AIやIoTが発展しているのに5Gネットワークが実用化されないと、極めて限定的な利用用途となってしまいそのメリットを享受できないユーザーも出てきてしまうのです。
5Gの活用事例
世界の産業を変革するほどの力を秘めている5Gですが、あまりにも抽象的すぎて分かりづらいと感じている方も多いと思います。
そこで、できるだけ具体的な活用事例をピックアップしながら解説していきましょう。
自動運転
ここ数年で話題に事欠かない自動運転技術ですが、まさにこれは次世代テクノロジーの集合体ともいえる存在です。運転席から見える景色やサイド、バックそれぞれの映像をAIが判断し、都度クルマに指示を送り制御します。このとき、自動車には複数のカメラやセンサーが装着され、あらゆるデータが制御センターに送信されます。センサーはIoT、そして制御指令を出すAI、それらをつなぐために5Gの技術が活用されることになります。
自動運転においては大容量や多接続といった5Gの特性も重要ですが、安全性を確保するという意味では低遅延も重要な意味をもちます。ネットワークに遅延が生じてしまうと制御指令を出してからブレーキやハンドルが操作されるまでタイムラグが生じてしまい、重大な事故につながるおそれもあります。そのような事態を防ぐためにも、よりリアルタイム性の高い5Gネットワークの活用が欠かせません。
■関連記事
自動運転や物流の効率化に欠かせない5G
エンタメ
大手通信キャリアを中心として、スポーツ観戦や音楽ライブ、フェスなどに5Gの活用が広まっています。まだいずれも実証実験の段階ですが、2020年代には実用化が現実的なものになってきています。専用のヘッドマウントディスプレイを装着して迫力のある映像や音声を楽しめるものから、タブレットやスマートフォンを通してマルチアングルで楽しめるものまでさまざまなパターンがあります。
ヘッドマウントディスプレイやマルチアングル観戦では高画質な映像データを伝送するため、高速大容量の5Gネットワークが欠かせません。
建機の遠隔操縦
自動運転に似た事例ではありますが、建設現場などで利用される建機を遠隔操縦する事例もあります。建機にカメラやセンサーデバイスを装着し、自動運転のように5Gネットワークでセンターと接続します。建機の操作は熟練の作業員による技術が必要なため、自動車とは異なり完全自動化は決して簡単ではありません。
しかし、遠隔地から制御できることによって、作業員自身の危険回避や被災地での救援活動に役立てることもできると期待されています。
■関連記事
建設現場も働き方改革!5Gによる作業安全性の向上と負担軽減
5Gによって変革する世界
日本は5Gの普及が遅れていると指摘されますが、もっとも大きな問題なのは、「いかに早く導入するか」ではなく「どれだけ普及させられるか」です。
一部の都市だけで5Gが利用できるようになっても、地方が使えないままでは意味がありません。日本の大手通信キャリアは、2020年以降できるだけ早い段階で本格的に5Gを利用できるように準備を着々と進めています。
これまで体験したことのない、革新的な通信の世界はすぐそこまでやってきています。