建設工事や土木工事の現場といえば屋外の過酷な肉体労働で危険をともなう作業とイメージする人も多いのではないでしょうか。たしかに多くの現場ではそのようなイメージ通りの現状はありますが、一方で働き方改革にともなって労働環境が徐々に改善されている現場もあります。
先進的な取り組みに積極的な企業のなかには、5Gなどのテクノロジーを活用した作業を模索する動きも見られます。
そこで今回の記事では、建設や土木の工事現場で5Gがどのような役割を果たし、それによって具体的にどんなメリットがあるのか詳しく紹介していきます。
目次
建設や土木作業の現場が抱える課題
建物の建設や道路や橋などを造成する際には多くの作業員や職人が携わります。さまざまな重機によって作業が効率化されているとはいえ、現場で作業をする以上はときに危険を伴うことも少なくありません。
たとえば建設の現場であれば、重機を使って作業を行っている際に誤って作業員が巻き込まれて事故が起こることも考えられるでしょう。
また、道路や橋、ダムなどの構造物は一度作って終わりではありません。長年にわたって酷使していると、コンクリートにヒビ割れが生じてしまうことも。わずかな異常を見逃してしまうと重大な事故につながることもあるため、定期的な点検作業は欠かせない作業です。しかし、点検は高所での作業となることも多く、当然のことながら大きな危険も伴います。
このように、建設や土木工事の現場では機械化が進んではいるものの、つねに危険と隣合わせの環境であることが分かります。
そこで、建設用重機を生産しているメーカーや大手通信会社などが中心となり、5Gを活用して建設現場の安全性を向上させようという取り組みが行われています。
5Gを活用した建設作業の事例
実際に5Gを活用してどのような実証実験が行われているのかご紹介しましょう。今回は分かりやすい事例として2つの実証実験をピックアップしてみました。
スマートコンストラクション(コマツ)
建設機械製造の大手であるコマツグループは、建設や土木作業の現場で重機を無人で操作するなどして作業の負担を軽減する「スマートコンストラクション」というシステムを開発しました。
画像引用元:Komatsu
まずはドローンなどで上空から測量を行い、3次元設計データを取得。専用のシステム上でどのように施工を行うかプランを立て、その計画に沿ってICT重機が作業を行います。極力人の手を介さず、さまざまなデジタルデバイスや重機によって作業を完結させるシステムを構築。特にICT建機の自動運転、自動作業は安全性確保に大きく貢献し、生産性向上にもつながることでしょう。
ドローンによる測量やICT建機の自動運転、自動作業においては、いずれも現場の状況を細かく確認できる超高精細な映像や画像が必要不可欠です。5K、8Kレベルの画質を撮影したデータはデータ量が大きく、ある程度の伝送速度が確保できていないと通信が難しいものです。今後5Gの本格展開によって、ますますスマートコンストラクションのようなサービスが広く普及してくると期待されています。
すでにコマツのスマートコンストラクションはさまざまな工事現場に導入が進んでおり、これまで全国において約300にもおよぶ現場で活用されています。
コマツのホームページでは全ての導入事例が掲載されており、さまざまなノウハウが蓄積されていることが分かります。
スマートドローン(KDDI)
スマートドローンとは5Gネットワークに対応したドローンです。従来のドローンと決定的に異なるのは、自律走行を可能にしている点。通常、ドローンといえばスマートフォンやタブレット端末、または専用のコントローラーなどでラジコンのように操縦するのが一般的です。
画像引用元スマートドローン
そして、ドローンとコントローラーはWi-Fiで接続されるため、最大でも操縦者から半径数km程度までしか飛行させることができません。
しかしスマートドローンの場合は、Wi-Fiではなく携帯電話ネットワークの5Gをつかって操縦するため、携帯電話の電波が届く範囲であれば理論上どこまでも飛行させられます。
これにより、たとえば鉄塔やダム、高速道路などの構造物の点検を行う際において、現場に向かうことなくドローンを飛行させることで点検作業を終わらせることもできます。
実用化させるためには法整備の問題などもありますが、建設現場の負担軽減という意味では大きなイノベーションを起こせる可能性は大いにあります。
5Gと併用されるテクノロジー
建設現場の労働環境は5Gによって劇的に改善されていきますが、ほかにもさまざまなテクノロジーと併用されて初めて実現可能なものとなります。具体的にどのようなテクノロジーが併用されるのかご紹介しましょう。
IoT
コマツのスマートコンストラクションに代表される事例では、ICT建機をはじめとしてさまざまなデバイスが5Gに接続されます。複数のデバイスをネットワークに接続するためには、IoTの技術が欠かせません。
たとえば建機を制御する際には周囲の状況をカメラで撮影し、障害物や作業員がいないかを都度確認する必要があります。カメラをはじめとしてさまざまなセンサーデバイス、そして制御部分にもIoTデバイスを装着して初めて建機が安全に動くようになります。
AI
建機の自動運転、そしてドローンの自律飛行を可能にするためには、カメラで撮影した映像や画像をもとに自動で判断できるような処理エンジンが必要です。これは人間の頭脳に該当する部分のため、まさに各デバイスの中核を担うものといえるでしょう。
障害物を避ける、適切な飛行ルートを選択する、どの程度の速度で走行するかなど、あらゆる条件を考慮して制御するのがAIです。AIは建設現場に限らず、自動運転システムなどにおいても必要不可欠な存在です。