AIによって医療はどう変わる?AI導入の本質を解説

AIによって医療はどう変わる?AI導入の本質を解説 AI

さまざまな産業分野への活用が進んでいるAIですが、新型コロナウイルスの影響によって特に医療分野における注目が集まっています。しかし、私たち患者にとってAIによる医療と聞くと、本当に大丈夫なのかと不安に感じてしまうもの。そこで今回の記事では、現在日本の医療はどのような問題を抱えていて、それに対してAIはどのような価値や役割を提供できるのか、詳しく解説していきます。

医療現場の現状

医療現場の現状

病院に行って診察室に入ると、医師や看護師に症状を伝え診察してもらいます。症状や患者の状態によってはレントゲンを撮影したり、採血をしてさまざまなデータを分析したりするケースもあるでしょう。

しかし、これらのデータはあくまでも参考情報に過ぎず、患者本人と医師がコミュニケーションをとったうえで病気の診断を行ったり、今後の治療方針をたてていくことが本質的な医療といえます。

しかし、少子高齢化や医師・看護師不足によって、多くの医療機関では慢性的な人手不足に陥っており、患者一人に対して十分な診察時間が確保できないケースも少なくありません。結果として医師は短時間に多くの患者を診なければならず、効率的に診察を行おうとするあまり十分なコミュニケーションが取れないケースもあります。

待合室で長時間待たされた後、自分の順番が回ってきて診察室に入ったにもかかわらず、医師と十分な会話ができないまま診察が終わってしまったという経験をしたことがある方も多いはず。また、自分は医師に向かって話しているのに、医師はレントゲン写真やパソコンに表示されたカルテばかりを見て、ほとんど目が合わないまま診察を終えてしまったというケースも多いでしょう。

これは決して医師が手を抜いているのではなく、大きな病院になればなるほど多くの患者を診なければならず、時間効率を求めた結果としてこのような状態に陥っていることがほとんどなのです。

AIの導入によって患者が抱くイメージ

AIの導入によって患者が抱くイメージ

医師や看護師の負担を軽減したり、新型コロナウイルス対策の一環としてAIを医療現場に導入する動きがあります。確かに診察の効率化という面では高い効果を発揮できそうですが、私たち患者にとって心理的な側面ではどうでしょうか。

AIの医療と聞くと、真っ先に思い浮かべるのは「冷たい」というイメージです。人間とは異なり、AIの場合は心が理解できません。たとえば「頭が痛い」という症状を例にとっても、どの程度の痛さなのかを把握する必要があります。人間の医師であれば患者の表情や言葉、言動などから推察することができますが、AIの場合はそのような微妙な変化に気付きにくいのではないか、と考えてしまいます。

また、ドラマや映画などにおいてAIが診断結果を誤るシーンがたびたび描写され、その診察精度に不安を抱く患者も少なくありません。AIは過去の膨大な学習データをもとに最適解を見つけ出すため、総合的に見て精度は高いといえますが、決して100%ではありません。万が一のことを考えると、自分の病気をAIの診断に任せることに強い抵抗を抱く方も多いのではないでしょうか。

このように、AIはさまざまな分野での導入が期待されている一方で、命を預かる医療現場においては不安材料があり、患者本人にとっても心理的ハードルは高いものです。

AIは医療をどう変えるか

AIは医療をどう変えるか

さまざまな課題が残る中、AIは今後の医療現場をどのように変えていくのでしょうか。実際に考えられる事例を紹介すると同時に、患者の不安をどのように解消するのかについても解説していきましょう。

カルテの入力をサポート

医療現場へのAI活用は、必ずしも直接的に患者を診断するためだけにあるとは限りません。自然言語処理や音声認識技術を活用し、医師や看護師が話す言葉をテキスト化し、カルテの入力をサポートすることもできます。医師がカルテを作成するためにキーボードを叩く作業が大幅に減り、患者と向き合う時間も増えるでしょう。

自然言語処理には辞書登録が必須となりますが、医療現場で使われる専門用語や言葉の言い回しなど、解消すべき課題も少なくありません。私たちが普段使用している音声入力機能とは異なり、さらに膨大な医療用語の辞書登録が必要です。

医師の診察をサポート

現在の医療は病気ごとに治療方法が確立されています。もっとも重要なのは、症状や検査結果を見極め、正確な診断を行うことです。しかし、病気によっては共通の症状が現れたり、人によっては特定の症状が出ないケースもあり、慎重に判断しなければなりません。

可能性として考えられる複数の候補の中から、医師は病名を診断することになりますが、AIはそのサポートを担います。あくまでも最終判断は医師であり、AIは考えられる病気の候補をピックアップするツールに過ぎません。

AIのサポートによって医師による診断ミスのリスクを軽減し、患者は安心・安全な治療を受けられるようになります。

災害や救急現場でのサポート

一刻の事態を争う救命救急や災害の現場においては、一度に多くの患者が訪れ混乱をきたすこともあります。当然のことながら医師や看護師が不足していると、カルテを記入している時間が確保できないことも。

応急処置を行ったうえで他の病院に搬送する際にも、自動入力されたカルテのデータがクラウドで共有される仕組みが整備されていれば、患者の引き継ぎもスムーズに行われるでしょう。

医療現場にAIを導入することの本質

今回紹介してきたように、医療現場におけるAIの活用はAIそのものが医師の代わりを果たすというよりは、医師や看護師をサポートするうえで有用なツールといったほうが適切です。カルテの自動入力や病名候補のピックアップなどは、その最たる例といえるでしょう。

もちろん、これ以外にも血液検査の結果からAIがガンの診断を行うシステムなども開発されており、将来的には広く活用されるようになるでしょう。しかし、現在開発されているシステムは100%の精度とはいえず、最終的に誰が責任を負うのかといった法的な問題もあります。これらの問題が解消されない限り、しばらくは医師の診断をサポートする用途で活用されていくのが現実的といえるでしょう。

医療現場へのAI活用は、決して冷たいものではなく、むしろ医師と患者のコミュニケーションを取り戻すために極めて重要な存在となるはずです。