さまざまな企業や自治体などでも導入が進められているAI。これまで人間が行ってきた作業をAIが代替することによって、大幅な生産性の向上や業務効率化が見込まれています。しかし、実際に業務にAIを活かそうと考えたとき、それを実現するためには高いハードルがあることも事実です。
そこで今回は、AIをビジネスに活用するとき、具体的にどのようなポイントに注意すべきなのか、具体的な手順も含めて詳しく解説していきます。
目次
AIの特性を理解する
AIは日本語で「人工知能」とも呼ばれていますが、この言葉を聞いたとき、自ら意思をもったロボットのような存在をイメージする方も多いのではないでしょうか。アニメや映画などで目にしてきた未来のロボットで、人間とは異なる明確な意思をもち、まるで万能な存在として語られることも多いです。
しかし、現時点でのAIはそのような存在ではなく、データをもとに学習し分析や処理を高速化することを目的として活用されています。人間のように革新的なアイデアを考え、「0から1を生み出す」ことは現時点でのAIにはできないことなのです。
その典型的な事例として挙げられるのが、将棋や囲碁などに活用されているAIです。将棋や囲碁のルールを覚えさせ、これまで人間が指してきた棋譜をデータとしてAIに学習させていくと、何万、何億という指し手のパターンを瞬時に導き出せるようになります。人間の棋士の場合、頭の回転が速く優秀な棋士であっても、何億通りという指し手をシミュレーションして瞬時に最適解を導き出すことは難しいもの。そのような人間にとっての手間や考える時間を省略させるという意味で、AIは非常に有効なツールとなり得るのです。
このようなAIの特性を会社の業務に当てはめてみると、たとえば新規事業の立案にはAIは向いていないものの、膨大な事務処理やデータ分析には最適なツールであることが分かります。
業務の課題をピックアップする
AIに適している業務の特性が分かったところで、実際に自社のどのような業務に役立てられるのかを考えていきましょう。
まずは現在行っている業務のなかで、日々膨大な作業に追われている業務や課題を抱えている業務をピックアップしてみます。この時点ではAIでの作業が可能か不可能かを考慮する必要はなく、業務で困っていることがあれば些細なことでも良いので徹底的に挙げてみましょう。
ただし、課題をピックアップする段階では漠然とした内容を挙げるのではなく、できるだけ具体的な内容に絞り込むことが重要です。たとえば「書類整理に時間がかかっている」という内容ではなく、「データを印刷してファイリングする業務に週◯時間程度を要している」「1日◯枚程度の申込書や契約書の印刷を行っている」といったように、客観的に見て分かりやすい内容に絞り込んでいきます。
AIに適している業務を見極める
ピックアップされた業務課題のなかで、AIに適している業務を見極めていきます。大前提となるのは、「明確なデータがありPC内で完結できる作業であること」。たとえば書類整理の場合は紙ベースでの処理となるため、現状のままではAIに適している業務とはなりません。
一方で、「毎日◯時に手動でバックアップを取っている」「Excelで受け取ったデータを社内システムに転記している」といった作業は、AIに適していると考えられます。また、単純な事務作業だけではなく、毎週のように売上データを集計して報告用の資料を作成している場合なども、AIが活用できる可能性は高いといえるでしょう。特にマーケティングや営業部門においては、過去の売上データをもとに正確な予測値を検討する際にも役立つはずです。
業務内容を見極める際には、その業務によってどの程度の人件費やコストがかかっているのかも記録しておくことが重要です。仮にAIによって代替可能な業務があったとしても、システム化によって莫大なコストがかかってしまうと費用対効果が見込めないことも考えられるためです。
業務フローや業務プロセスの再検討
AIに適している業務を見極める段階で外れた業務がある場合、本当にそのままのフローで進める必要があるのかも検討してみましょう。たとえば顧客や取引先との契約において、書類ベースでのやり取りを行っている場合、システム化の実現やデータとしてやり取りすることは難しいのかを検討してみる必要があります。
なぜAIに適している業務から外れたのか、そのネックとなっている部分にフォーカスしてみると、解決策や代替案が見えてくるはずです。できない理由を探すのではなく、「こうすれば実現できる」といったポジティブな方向で考えてみることが何よりも重要です。
ちなみに、どうしても紙ベースでのやり取りしか手段がない場合、OCRなどの機器を併用することによって紙に書かれた内容をデータ化することも可能になります。また、コールセンター業務などにおいては、会話の内容をAIによって文書化できるシステムなどもあります。
システム開発の担当者と相談してみる
具体的に業務内容が決まったら、AIシステムを開発している担当者やベンダーと相談し、実現可能かを判断してもらいましょう。スムーズに話を進めるためにも、この段階で業務内容や詳細なフロー、業務プロセスについても明確にしておく必要があります。また、何をもってAIに判断させるのか、その根拠となるデータも必要です。
システム開発の会社によっては、業務の見極めの段階から関わってくれるところも多く、AIのことが何も分からない場合でも丁寧に対応してくれるはずです。ただし、当然のことながら業務に関わる機密データや社外秘の情報なども開示しなければならないことも多く、慎重に進めなければなりません。
AIの活用はスモールスタートが重要
AIのビジネス活用を検討する場合、何よりも注意すべきなのはスモールスタートを心がけることです。たとえば会社全体の業務フローを見直し生産性を向上させたいからといって、いきなり全社一斉にAIを導入してしまうと混乱をきたすことも考えられます。また、完成したシステムにバグや不具合などが見つかった場合、業務そのものが停止しスムーズに移行できない可能性も考えられるでしょう。
はじめから大規模なシステムを構築するのではなく、まずは一部の部署から始め、業務に影響の少ないところから徐々に拡大していくのが理想といえます。コアな業務への導入を検討する際には、全てをAIのシステムで代替するのではなく、たとえばスタートの時点では全体の1割程度を試験的に始めるなどの工夫が必要です。
業務に影響があることを想定しながら、万が一の際にはカバーできるような人員の体制をとっておくことも求められるでしょう。このように、AIの本格的な導入は段階を踏んで慎重に進めていくことが重要なのです。