あらゆる産業の構造やビジネスモデルを変革し、社会課題の解決にもつながると期待されているIoTや5G。自動車産業や物流産業、医療分野など、さまざまなシーンで実証実験が行われていますが、なかでも注目度が大きく社会課題にも直結すると考えられているのが建設・土木作業の分野です。
今回の記事では、建設・土木産業における現状の問題点を把握するとともに、IoTや5Gによって具体的にどのような解決策が見込めるのか、詳しく解説していきます。
目次
建設・土木業界は深刻な人手不足に陥っている
国土交通省の調査によると、数ある産業のなかでも建設・土木業界は特に深刻な人手不足に陥っていることが報告されています。建設業の就業者数は1990年代後半にピークを迎え、当時685人もの雇用を支えていました。しかし現在の就業者数は500万人を割り込み、ピーク時に比べて実に200万人もの人員が減少していることが分かります。
建設・土木産業は国のインフラ構築においても重要な役割を果たし、特に災害が多い日本においては欠かすことのできない重要な産業です。建設・土木に携わる人がいなくなると、道路のメンテナンス工事や災害からの復旧ができなくなり、物流網や救急医療体制の確保にも影響を及ぼしてしまいます。
最近では大雨や台風の被害も拡大し、河川の氾濫対策やダムの重要性についても多くの人があらためて認識しはじめたところではないでしょうか。建設業や土木産業と聞くと、新たにビルやマンションを建てる仕事をイメージする方も多いですが、実はそれ以上に私たちが安全に生活するうえで極めて重要な役割を果たしているのです。
建設・土木産業への就業者数が減少しているなか、国の基盤ともいえるインフラを支えるためには、テクノロジーを活用した作業効率化や生産性の向上が極めて重要な課題となっているのです。
建設業界へのIoT・5G活用事例
深刻な人手不足に陥っている建設・土木業界において、具体的にどのようなテクノロジーの活用事例があるのか見ていきましょう。まずは建設の分野における活用事例を2つご紹介します。
建設機械の遠隔制御
大手ゼネコンと通信事業者がタッグを組み、油圧ショベルやブルドーザー、振動ローラーなどの建設機械を遠隔で制御する実証実験を行っています。建設現場に5Gの臨時基地局を設置し、建設機械にはさまざまなセンサーデバイスやカメラを搭載。建設機械から取得したさまざまなデータを5G経由でリモート配信することにより、作業員は現地に行かなくても離れた場所で操作することができます。
これにより、たとえば午前は北海道の現場作業、午後は九州の現場作業を関東地方にある事務所から操作することも可能になると考えられます。いわば建設作業のリモートワークのような新しい働き方であり、最小限の作業人員で効率的な作業が可能になります。
距離が遠くなればなるほど通信の遅延は大きくなるため、現時点では北海道や九州といった事例は現実的ではありませんが、作業員の負担は確実に減り働き方改革にも貢献するはずです。
配筋検査の省力化
建物の強度を左右する鉄筋コンクリートは、建設の段階で「配筋検査」とよばれる検査を行います。従来の配筋検査は専用のスケールや黒板を使って証明用の写真を撮影するなどの手間がかかっており、作業時間もコストも要するものでした。
しかし、特殊なカメラで撮影することで3次元データを取得し、極めて精度の高い配筋検査を短時間で実現するシステムが開発されました。検査結果はわずか7秒で出力され、検査結果のデータは4G/5G回線を通じて遠隔地まで配信も可能。
これまで複数人で行っていた配筋検査の作業は、この仕組みを導入することにより1人の作業員で効率的に実施できるようになり、大幅な省人化・効率化が実現されます。
土木業界へのIoT・5G活用事例
次に、土木業界におけるIoT・5Gの活用事例を2つご紹介します。
ドローンによる測量
土木工事において特に関連性が高く欠かせないのが「測量」です。土木工事の前に対象となる範囲や境界を明確化するためにも、測量の技術は欠かせないもの。しかし、従来の測量は極めて専門性が高く実務経験も必要とされます。その一方で測量士として活躍する人の数は年々減少しており、国土交通省の調査によるとピーク時の2000年代半ばに比べて20%もの減少率となっています。
このような状況を打破するために、ドローンを飛行させて上空から測量を実施する技術が注目されています。ドローンに搭載された超高精細なカメラで対象範囲を撮影し、それをもとに3次元データを作成。土地の面積や高低差といった詳細なデータを瞬時に計測し、遠隔地までネットワークを経由して配信することができます。
測量士や測量士補など複数人の担当者で行っていた大規模な測量も、ドローンによる測量が実現すれば最小限の人員で短時間に作業が完了すると期待されています。
下水工事におけるゲリラ豪雨対策
私たちの日常生活に欠かせない下水設備は、日々の適切なメンテナンスが欠かせません。しかし、地上での作業とは異なり、下水工事は地下での作業となるため天候の急変をリアルタイムで知ることは難しいもの。特に、近年急増しているゲリラ豪雨に見舞われた場合、下水を流れる水量は瞬時に増大し、作業員の安全を脅かす事態となってしまいます。
そこで、天候の急変を知らせるためのシステムとして、気象観測データをもとにゲリラ豪雨のリスクが高まったときに、作業員のスマートフォンや専用の端末にアラートを発する取り組みが始まっています。
ゲリラ豪雨は一般的な天気予報の情報だけでは把握できず、リアルタイムでの雨雲の動きや降雨情報が要求されます。極めて精度の高い気象データをもとに作業員に提供することによって、天候に応じて作業員が速やかに引き揚げられる体制を構築しています。
IoTと5Gの活用によって安全性確保と作業効率化を両立
今回紹介してきた建設・土木業界へのテクノロジーの活用事例は、いずれも高い安全性を実現し、同時に作業効率化や生産性アップにも役立つものばかりです。これまで熟練の作業員の経験や勘に頼ってきた仕事も、IoTや5Gといったテクノロジーを活用することによって刷新され、後世へ技術や知見を引き継いでいけるようになるはずです。